知らないことは「分断」につながる

高橋:関係性は生き物だから、良好になってはぐくまれることもあれば、悪くなって解消することもある。いずれにしても時間がかかるわけですよね。一方で、僕は急がなければと危機感を持っています。ある大学で講義をした時に先生に言われたのが、「今の大学生はもうググることもしない、タグ付けだけで関心のあることに最短距離で行こうとする。同質化が進んでいる」と。知ったうえでの好き嫌いはあってもいいけど、知らないで好き嫌いというのは分断や排除になりかねない

 昔は霞ヶ関も地方出身者の集まりだったんですよ。東京生まれと、地方生まれの人たちが出会って議論を交わし、かき混ざっていた。ところが今は都会と地方の人の暮らしが隔絶されて、もはや奏であえない。地方には食べものや水や文化を育んでいる人たちがたくさんいて、その恩恵で都会の暮らしが成り立っていることを理解できない人たちが増えています。

 今年(注:2019年)は台風が各地で起きて、僕も被災された生産者さんを訪ねてきました。地方は高齢化社会で税収も減って、社会資本をメンテナンスするお金がないんです。壊れて水浸しになった現場で復旧作業の先頭に立っているのもお年寄りです。僕の会社は渋谷にありますが、ハロウィンのあとの渋谷の街には、食べものがたくさん捨ててある。これが同じ国なのか、と。

 地方は過疎化で人がいないので、面倒見のいい人は本業の仕事や消防団、学校のPTA会長のほかに、農業やお年寄りのお世話など、1人で何役もこなしています。地域や社会のために額に汗してがんばっていて、彼らはもはや限界なのに、まったく報われる機会がない。僕は東京のIT企業で価値を生み出している人も素晴らしいと思うけど、受け取る対価を見るとあまりにも差がありすぎるんです。僕は本当に疑問でならない。この矛盾を是正するには、新井さんがおっしゃるように、社会の評価軸を変えていかなければと感じています

 一昨年、僕は日本を代表する複数の有名大学の学生たちの前で、地方創生をテーマに講演をしました。質疑応答で最初に手を上げた学生が「なぜ、地方は必要なんですか?」と、僕に質問したんです。彼に理由を聞いたら「日本は前代未聞の人口減少社会。生易しいことを言っていたら乗り越えられないから荒療治が必要で、みんな都会に集まって暮らすべきだ」と。そのほうが財政面や雇用面でも合理的で、一次産業も海外から必要なものを輸入すればいいんじゃないかと。僕が危ないと思ったのは、彼に悪気がないということです。つぶらな瞳で僕を見つめて、本気でそう思っている。彼のような価値基準の人が今、社会にすごく増えていることを体感するんですよ。だから僕は、都会と地方をかきまぜる取り組みをもっと広げて、異なる価値観や地域の社会にふれることを急いでやらなければ、手遅れになってしまうという危機感があります