フォロワー18万人超!仏教の視点をもって、国内外の方々から寄せられた「人間関係」「仕事」「恋愛」「健康」などの相談に応える YouTube チャンネル「大愚和尚の一問一答」が人気爆発。
「実際にお寺に行かなくてもスマホで説法が聞ける」と話題になっています。
その大愚和尚はじめての本、
『苦しみの手放し方』が、発売になりました。
大愚和尚は、多くのアドバイスをする中で、
「苦しみには共通したパターンがある」「多くの人がウソや偽りを離れて、本当の自分をさらけ出したいと願っている」「苦しみを吐き出して可視化することによって、人は少し苦しみを手放すことができる」ということに気づいたといいます。
そんな和尚の経験をもとに、この連載では
『苦しみの手放し方』から、仕事、お金、人間関係、病気、恋愛、子育てなど、どんな苦しみも手放せて、人生をもっと楽に生きることができるようなヒントになる話をご紹介していきます。

【大愚和尚】本人のいないところで人を褒めると、何が起きるのか

本人のいないところで、人を褒めると、
相手を魂のレベルで喜ばせることができる

「相手を引き寄せる(人に動いてもらう)には、自分が魅力的な存在になること」が重要です。曹洞宗(そうとうしゅう)の開祖・道元禅師は、『正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)』の中で、「四摂法(ししょうぼう)」と呼ばれる「相手を引き寄せる4つの智慧ちえ」について、書き残しています。
 4つの智慧とは、「布施(ふせ)」「愛語(あいご)」「利行(りぎょう)」「同事(どうじ)」です。

● 布施……独り占めしないで、他の人に自分の財力、能力、労力を惜しみなく分け与えること
● 愛語……優しい言葉、慈愛に満ちた言葉、愛情のこもった言葉をかけること
● 利行……見返りを求めないで、他の人の利益のために尽力すること
● 同事……自分を捨てて、相手と同じ心・境遇になること。相手が喜んだら同じように喜び、誰かが悲しんだら同じように悲しむこと

「四摂法」の4つの智慧は、いずれも、より良い「仲間づくり」の秘訣を説いたものです。4つの中で、とくに愛語の実践が、人間関係を良い方向に変えると私は考えています。
 愛語は、「赤ちゃんを思う母親のように、慈しみを持って言葉をかけなさい」という教えですが、もうひとつ興味深いことに、その使用方法までが具体的に示してあります。
 それは、
「その場にいない人を褒める」
「その人がいないときに、その人の魅力をどんどん話す」
「本人のいないところで、人を褒める」

 ことです。

 会社員のAさんは、部下との関係に悩んでいました。部下が、「なかなか言うことを聞いてくれない(上司の言うとおりに動いてくれない)」というのです。
 ですが、言うことを聞かなかったのは、部下に忠誠心がなかったからではありません。
「部下に厳しくする」のが、Aさんの指導方法だったからです。Aさんは愛語の実践を怠り、日常的に部下の欠点を見つけ、それを批判していました。
 その後、愛語の教えを学んだAさんは、「部署内のお荷物」と見なされていた部下のBさんに対し、愛語を実践するようになりました。Bさんの欠点を批判するのではなく、Bさんの持ち味をポジティブに評価し、「本人のいないところ」で、褒めるように心がけたのです。

「上司が、自分のことを『間接的』に褒めてくれている」ことを知ったBさんは、以前のように、失敗にめげたり、肩を落とすことがなくなりました。営業成績も少しずつ上向きになったそうです。Aさんの愛語がBさんを励まし、そして、Bさんの変化が部署全体を明るく変えたのです。

 道元禅師は、「言葉の力」をとても大切にしていました。『正法眼蔵』には、
「むかひて愛語をきくは、おもてをよろこばしめ、こゝろをたのしくす。むかはずして愛語をきくは、肝に銘じ、魂に銘ず」
と書かれてあります。
人間関係を円滑にするには、愛語を実践する。間接的に人を褒める。
 そうすれば相手からも、優しい言葉、慈愛に満ちた言葉、愛情のこもった言葉をかけてもらえるようになるはずです。

(本原稿は、大愚元勝著『苦しみの手放し方』からの抜粋です)