「行動しないから」とどんどん口出しをすれば、嫌々ながらでもやるようにはなるかもしれません。それはあくまでも「言われたからやる」のであって、「自らやる必要を感じ、動く」わけではありません。だから新しいことをやってもらうためには、また改めて口出しをしなければならないという悪循環に陥ってしまいます。

 ならば「部下に口を出しても、自分事として動いてもらうのは簡単ではない」という前提に立ち、どうしたら「自分事」として動いてくれるかに知恵を注ぐほうが建設的です。

とある会社の攻防戦

 ある飲料のオペレーション会社では、上司が「自動販売機をきれいに掃除しろ。常に清潔な状態を保て」といくら注意してものれんに腕押しで、掃除をサボり続ける部下がいました。

「掃除はしたのか?」と確認しても「しました」と生返事。「でも昨日見たら汚かったぞ」と追及しても「あそこはすぐ汚れちゃうんですよね」とのらりくらりかわします。

「何かいい知恵はないかなぁ……」。上司はある行動に出ました。自動販売機を拭く専用の洗浄液を入れた容器。レバーを引いて、スプレー状に洗浄液を吹き出すことから、社内では「シュッシュ」と呼んでいます。

 上司は、その部下が営業に出かける前、さりげなく営業車を片付ける手伝いをしながら、「あれ? シュッシュはどこ?」と聞いたのです。

 自動販売機なんて何年も掃除していないその部下は、さすがに慌てて探し始め、トランクの奥からようやく見つけた「シュッシュ」は、中身の洗浄液がからっぽ。

「やっぱり掃除なんてしていなかったじゃないか! いつから空なんだ!」と叱りもせず、じーっとその容器を見つめる上司に、部下は「これはまずい」と思ったようです。「そうだ、昨日空になったんだ。すぐに入れてきます」と見え透いた言い訳をして洗浄液を満タンにしました。