12時近くにマンション前のコーヒーショップで会った。長い1日だった。

 理沙が掲載した首都移転の記事と首都模型が、数時間の内に総理の首都移転計画の発表にまで進展したのだ。勢いとはそういうものかもしれない。

 森嶋が店に入るとすでにロバートの姿があった。

「アメリカ政府は、今回の日本政府の英断を大いに評価している。すでに大統領の談話は総理に届いている。何としてもなしとげてほしいということだ」

「こちらの政府は大もめだ。議員の半数以上は首都移転に反対している。国民も似たようなものだろう」

「じゃ、半数は賛成ということか。後は切り崩していけばいい」

「首都圏選出の議員は全員が反対だ。賛成議員にしても自分たちの選挙区に首都を持って行く可能性にかけているだけだろ。場所が決まれば、大部分の者は反対に回る」

 ロバートはそうだろうなという顔をしている。

「しかしこれで、日本経済も少しは持ち直すかもしれない」

「中国がさらに大きく動き出している。日本国債と円の空売りに拍車をかけている。首都移転計画がつぶされ、近いうちに日本の格付けが大幅に下がると読んでいるんだろ。そうなれば国債も円も大幅下落間違いなしだ。株価も連動するだろう。日本経済の崩壊だ。その前に首都移転が確実になれば、何とか回避出来るかもしれない」

「インターナショナル・リンクのダラスが近いうちに会見を開くそうだ。その内容がカギになる」

 当然ロバートも了解しているだろう。ひょっとして、すでに内容まで知っているのかもしれない。

「総理が日銀総裁と会っているというのは事実か」

「それは財務省の管轄だ」

「こんな状況でもデフレが相変わらず続いている。円の大幅増刷なんてことはないだろうな。そんなことをすれば円の下落は加速度的になる。どうも、お前の国は適切なタイミングということを知らないようだ。アメリカ政府は意外と気にしている」

 ロバートは暗に情報を要求しているのだ。

「いずれにしても、アメリカと日本はより親密にならなきゃな」

 そう言って森嶋に笑いかけた。

 ロバートとは1時間ほど話して別れた。彼は森嶋から首都移転の具体的な進展を知りたかったらしいが、森嶋自身が詳しくは知らない。