しかしその日から都内を中心に首都移転反対運動が始まり、その波は東京から近県に広がり、拡大していった。神奈川、千葉、埼玉などの首都圏では反対の署名が集められ、討論会が各地で開かれた。

 そして大規模なデモとなって広がっていった。

 法案などの法的手続きに関する書類はすでに、首都移転準備室のときに出来あがっていた。

 政府は懸命に首都移転の必要性について発信し始めた。

 各地で公聴会が開かれ説明が行われた。さらに有識者の討論会、市民を対象にした討論会も開かれるようになった。

 新聞は首都移転の記事に多くの紙面を割き、テレビは多くの時間を関連の番組にあてている。

 その間にも森嶋たちは移転に必要な作業を続けていた。

 その週の内に首都移転チームのメンバーは4倍に増えた。今までいた者の下に部下がつき、新たに広報担当の部署が作られた。

 すでに首都移転チームは100人以上にふくれあがっていた。そしてさらに増員が求められていた。

 いっとき平静を取り戻しつつあるかと思えた株価も為替レートも、東京、首都圏に広がりを見せる反対運動と、議員たちの強硬な反対、政府のどこか煮え切らない態度により、再び加速度的に悪化の方向に傾き始めていた。

 政府も必死で介入をちらつかせてはいるが、下落の勢いは止まらなかった。

 インターナショナル・リンクは静観を保ったままだ。ここで格付けを下げられたら、一気に日本は坂を転げ落ちて行くだろう。

 総理執務室には総理と数名の閣僚が集まっていた。

 数日前から総理官邸をデモ隊が取り囲んでいるのだ。初日は数百名規模だったのが、翌日には千名単位になり、今日は万単位に膨れ上がっているという。

「都民や首都圏に住む者なら反対するのは当然だろう。地方の様子はどうだ」

「大阪、名古屋、福岡など大都市を有する地方では歓迎するムードが強いとの報告があります。同時に地元への勧誘活動が活発化しています。国交省には陳情の列が出来ているそうです」

「今週末には世論調査を行なってくれ」

「すでに準備は終わっています」

「その前に私がもう一度、演説しよう。この数日で私もかなり勉強した。十分に国民に説明できる。新しい模型は出来たか」

「まもなく最新のものが長谷川設計事務所から届けられることになっています」

 総理執務室に新首都模型が運び込まれた。

 かすかな溜息が広まった。秘書や閣僚たちには評判がよくないのだ。

 基本的には同じだが、今度の模型には薄い色づけがされている。

(つづく)

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