ピカソに全力で「ダメ出し」をしてみる
作品が気になる人はインターネットで検索するか、『13歳からのアート思考』でご覧ください。
ここで、《アビニヨンの娘たち》についても「アウトプット鑑賞」をやってみることにしましょう。ただし、今回は「特別なお題」があります。それは、この絵にできるだけたくさん「ダメ出し」をしていただくことです。
ピカソはあなたの弟子で、あなたは師匠だとしましょう。もし弟子のピカソが、「師匠、こんな作品を描きました!」といって、この絵を持ってきたとしたら……?
「リアルかどうか」という観点でこの絵のあら探しをして、「ダメ出し」をしてみてください。
さあ、「ダメ出し・アウトプット鑑賞」のはじまりです!
「なんでこんなにカクカクしているの?」
「ちゃんと見て描いたとは思えないぐらい、身体のパーツのバランスが悪い」
「遠近法がなってない」
「おかしなところに影(?)がある」
「いきなりものすごくピンクの部分がある」
「百歩譲って人間だとはわかるけれど、無機質で人間味がまったくない」
「女性らしさが感じられないんですけど……」
「どの人も無表情でなにも伝わってこない」
「中央の2人の女性の顔が、ほぼ同じ」
「顔は正面を向いているのに、鼻がL字型で真横から見たみたいだ」
「目や眉毛が左右非対称」
「右上の人はロバかマントヒヒみたいな顔」
「右下の人の顔がグロテスクすぎる」
「お面をかぶっているみたい」
「上半身の逆三角形がやけに強調されている」
「ウエストが細すぎて不自然だ」
「中央の人の足の角度がおかしい。関節が外れているみたい」
「中央の人の二の腕が極端に太い」
「左の人は、突然頭から手が生えていない!?」
「右の2人は、腕が途中で消滅している」
「胸が四角形だ」
「右下の人は後ろ向きで座っているのに、顔だけこちらを向いている」
「この絵の場面や状況が全然わからない」
「背景はカーテン? 割れたガラス?」
「下にフルーツのようなものが描かれているけれど、なんなのか判別不可能」
いかがでしょう? あなたはどこにダメ出しをしましたか?
ある意味では「ツッコミどころ」だらけの絵ですから、その気になればいくらでもダメ出しができそうです。
巨匠の絵に対して失礼極まりない鑑賞でしたが、「あら探ししてやろう」と思ったことで、いつも以上に絵をよく見ることができたのではないでしょうか。
じつは、ピカソがこの絵を発表したとき、アート界の人たちは「さすが天才の作品だ!」と褒め称えたわけではありませんでした。それどころか「酷い絵だ」と非難したのです。
それまでピカソを高く評価していたコレクターは「フランス美術にとって何たる損失だ」と落胆し、画商や画家仲間たちは「斧の一撃で切りつけられた(ようだ)」「4等分したチーズのような鼻」などと、かなり辛辣な「ダメ出し」を繰り広げました。
ですから、みなさんも「巨匠の絵だからすばらしいに違いない」なんて無理に思う必要はありません。当時のアート関係者たちが、まさに「ダメ出し・アウトプット鑑賞」をしていたことを思えば、「変な絵だなあ」という感想のほうがむしろ自然だとすらいえます。