いま、日本でも多くのビジネスマンが「美術」を学び始めている。『ANAが社員に「西洋美術史」を学ばせる理由』でも伝えたように、美術を社員に学ばせ始める企業が増えてきているのが現状だ。なぜ今、日本でそのような流れがきているのか? 美術史の本としては異例の5万部を突破した『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』の著者・木村泰司氏にその理由を聞いてみた。

欧米では、「美術」がエリートの必須教養

 そもそも欧米では、「美術」はエリートたちの必須教養です。英国王室のウィリアム王子とキャサリン妃が、大学で美術史を専攻していた時に出会ったように、欧米での「美術史」はいわゆる「アッパークラス感」が強く出る学問になります。欧米の大学においても、いわゆる「エリート校」と世間的に称されるところ以外には、専攻の選択肢にすらないことが多いのが実情です。

 歴史を振り返っても、「美術」はある一定の階級以上の人たちにとって必須の教養でした。美術史のテキストに登場し、欧米の美術館が誇る芸術作品は、時の権力者が制作させたものがほとんどです。宗教美術の分野でも、それらを制作させたのは無名の一市民ではなく、名家出身の人たちでした。

 現在、多くの観光客が訪れるルーヴル、プラドやウィーン美術史美術館、そしてエルミタージュやアルテ・ピナコテークなど、多くの美術館に収められている美術品もまた、王室の美術コレクションを一般公開したものが基礎になっています。さらに、ヨーロッパと違い王室が存在しなかったアメリカの有名美術館のそれも、上流階級の人々が専門家のアドバイスを受けて収集し、寄贈したものが多いのです。

 つまり美術品とは、ある一定の知識や教養を持った人たちが発注し、収集したものなのです。こうした社会を牽引した人々が創り上げてきた文化は脈々と受け継がれ、現代の欧米のエリート社会にも根付いています。

「美術史」の知識が、視座を高めてくれる

 そして、社会がグローバル化するいま、ようやく日本でも美術史の重要性が認識され始めています。ここ10年来、日本で、財界人や企業向けの美術に関するセミナーが増えているようです。私も以前に比べると、多くの企業に美術史を講義する機会をいただくようになりました。

 私のセミナーにおいても、欧米に駐在や留学経験のある方たちほど、その必要性を認識されています。とくに、エグゼクティヴなポジションにいる方やその配偶者ほど、その地位に相応しい現地の方との社交からその必要性を痛感されているようです。

 もちろん、欧米人とそこまで関わりのない方にとっては、すぐにこの知識が役立つことはないかもしれません。しかし、西洋美術史を体系的に学ぶことで、展覧会の見方はこれまでとはまったく違ったものになります。

 また、西洋美術史を知ることは、世界の歴史や価値観、文化を学ぶことでもあります。美術史を少しかじるだけでも、毎日流れてくる世界のニュース、そして娯楽としての海外映画やドラマなどに対する視点も変わり、より深く受け入れられ、楽しめるようになるでしょう。

 目覚ましい速度でグローバル化する現在の日本において、西洋美術史の教養が、今までのみなさんの視野にちょっとした変化を与えてくれるはずです。ぜひ、新たな教養として「西洋美術史」を学んでみてはいかがでしょうか。その際は、拙著『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』も、ご参考にいただけますと幸いです。