評価を必ずフィードバックすること。それが「適度なかまい方」のもっとも重要なポイントである、と前回は指摘しました。

 しかし、フィードバックをすればいいというものではありません。フィードバックがモチベーション・アップにつながるための条件は、上司と部下のあいだに良好な関係性があることです。

 逆に良好な関係性がないと、たとえ上司が部下をほめても、部下の責任感は低下するという研究結果があります。JR西日本が福知山線脱線事故を契機に取り組み始めた安全運行のための研究の一環で、「効果的なほめ方・叱り方に関する研究」がそれです。

 今回は、この興味深い研究結果について詳しくレポートしましょう。

大事故の背景に潜む
ヒューマンファクター

 上司と部下との間で「良好な関係」がない場合、上司がほめても部下の責任感が低下する。JR西日本・安全研究所による研究で、こんな結果が明らかになりました。

 乗客106人が死亡したJR福知山線の脱線事故の後、事故の背景としてヒューマンファクターの観点からの取り組みが不足していたという反省から、JR西日本は安全研究所を設立。多面的な研究が続けられていたものです。

 今年9月に公表された「研究成果レポート」には、「ヒューマンエラーの分析と対策」、「睡眠のとり方および眠気防止に関する研究」など9種類の研究成果が紹介されていますが、冒頭の研究結果は「効果的なほめ方・叱り方に関する研究」の結果です。

 この研究結果は、それが福知山線の事故の原因である、と指摘するものではありません。しかし、上司と部下の関係性が安全意識に影響を及ぼす可能性があるということは、あらためて「適度なかまい方」の重要性を示唆するものとして注目に値します。

 「ヒューマンファクターについては、それまではほとんど組織的な取り組みがなされていませんでした」と、白取健治・JR西日本常務執行役員・安全研究所所長は振り返ります。

 安全運行にかかわるヒューマンファクターは上司と部下との関係だけに限らず多様ですが、安全研究所で安全性向上の要素の1つとして職場におけるほめ方・叱り方にも着目しました。「もともと運転の現場はタテ社会。なにかあれば上が下を叱りとばすような風土がありました」(白取所長)。

 大事故は企業としての信頼を著しく損ねることになりました。JR西日本の再発防止にかける思いは真剣です。とはいえ、これはJR西日本だけの問題ではありません。顧客の生命を預かる業種である鉄道業や航空業などだけでなく、顧客の生命に関わらなくとも、上司・部下の人間関係が顧客の不利益につながることがあるという意味では、あらゆるビジネス領域にあてはまる問題といえます。

 JR西日本では、研究結果は他業種にも広く公開していく方針です。

「ほめられる」ことに対する
部下と上司のすれ違い

 では、研究内容を解説しましょう。