小学生が「なぜお金を?」と聞くと、「この作品があまりにも素晴らしいからだよ。そうだと思わないか、みなさん?」と、筆者を含めレジに並ぶ人全員に尋ねる老人。これにみんながその通り!と相槌を打ったためか、小学生も10ユーロを受け取り、付添いの女性も一緒にお礼を伝えました。

 この老人、スーパーの常連さんらしく、レジ打ちの女性が「今日はまた何かあったの?」と老人に尋ねます。すると老人は、70歳以上の老人を中心に厳しい外出制限を加えるとの前日のマクロン大統領発表を受けてでしょう、「いや、僕は来週から自宅待機しなきゃいけないので、しばらく子どもたちの顔も見られないし」と、哀愁漂う背中で店を後にしました。

「あのお爺ちゃんきっと寂しいのよ」。そう言いながら、レジの女性が子どもの1人にお釣りを渡そうとした時です。その小学生は、レジ打ちがウイルスに接するリスクの高い仕事と理解してのことか、「いや、大変そうな仕事だから、これマドモワゼルにあげる」と無邪気に答えて、お釣りを受け取らずに店を出ていきました。老人と小学生が繰り広げた、さりげないが温かく人間臭い光景が、筆者も含め新型コロナウイルスで緊張感を高めているであろう、店内の人全員を和ませてくれたのです。

全国に拡がる助け合いの輪

 2011年の東日本大震災直後の日本でもそうだったように、社会が危機に瀕すると、人々の間で、連帯と共助の動きが自然と広がるのではないでしょうか。今回の新型コロナ危機を受けたフランスでも、CIVISME (シビズム=公徳心)を口にする人が増え、外出制限に厳しさが増した3月15日あたりから、全国で共助の動きが活発化しています。

コロナウィルス助け合いポスター。写真は同団体サイトより
コロナウィルス助け合いポスター。写真は同団体サイトより

 例えば、非営利団体Voisins Solidaires(隣人連帯)による、同じアパルトマンに住む住民同士のつながりと助け合いを促す動きです。住民は同団体が運営するサイトから「助け合いキット」をダウンロードします。キットの中には、アパルトマンの玄関ホールに貼る「コロナウィルス助け合いポスター」、各住民がサポートできる内容(薬や食料品の買い出し、子どもの預かり、犬の散歩、郵便物の投函、病院への付き添い等)を記入する用紙、住人の緊急連絡先リストが入っており、3月17日現在で6万8000回ダウンロードされています。

 また、共助のためのオープンソース型オンラインプラットフォームも立ち上がっています。例えば、今月13日にスタートしたEn premiere ligneです。3人のボランティアが立ち上げて4日後には、運営協力ボランティアが2万人、利用者が20万人に膨れ上がっています。また、既存のご近所さん助け合いプラットフォーム(例:Nextdoor、Allo Voisins)でも新型コロナ専用のキャンペーンが始まっています。

 こうした共助の拡大に加え、17日からツイッターやフェースブック等のSNSにより、ウィルスとの闘いの最前線で奮闘する医療関係者を称える#OnApplauditという動きが全国に広がっています。毎晩8時に、市民が窓を開け一斉に拍手をするものです(https://www.facebook.com/watch/?v=223426845517551)。

 外出制限はまだしばらく続きます。活動の自由を取り戻すための長い闘いです。そんな中、筆者も毎日1回は外出することにしています(近所の散歩やジョギング、食料品購入目的の外出は、自己申告用紙を持参すれば可能)。外出の度にすれ違う人たちの表情が、いつになく柔らかく映ります。人々の共通の目的となった新型コロナウィルスとの闘いが、社会の連帯と、優しい人の温もりを再認識するよい機会になっていることは間違いありません。(3月18日、パリにて)