本書『餃子のおんがえし』は、かつて「伝説の居酒屋」を営んでいて現在は料理作家の著者・じろまるいずみさんの、食にまつわるエッセイ集である。幼稚園の時にはもう「この世で一番好きなのはお料理すること食べること」と思い定めていたというじろまるさんの、幼い日から今日までの、めちゃめちゃおもしろいエピソードが次々に繰り出されている。一人の人生に、食にまつわる話だけでこんなにいろいろ巻き起こりますかというほどだ。

 人には絶対に見せられないという同僚のとんでもない味噌汁の話や、父と作ったコンビーフの話。若いときにちょっと付き合っていた彼が言っていた町中華のラーメンの秘密が思いがけず解ける話。最初の結婚をしていたころのたくあんの苦い思い出。運命のだし巻き卵との出会い、そしてだし巻き修行の日々。

 そうしたじろまるさんのエピソードには不思議な力がある。読者である私の食の思い出を呼び醒まし、「そういえばあの時こんなものを作った。あんなものを食べた。」と思い起こさせるのだ。

とにかく思い出
喚起力がすごい

 敷き詰めた海苔を夜空に見立て、そこに半月型のオムライスが乗った弁当は「下弦の月弁当」と優雅に名付けられいかにも美味しそうであるのと同時に、昔母が作ってくれた弁当や、私が娘に作った弁当を思い出されられる。

「イケアの炊込みごはん」はいかにもごちそう的で、「ああこれ知ってたらあの頃弟もよろこんだろうな」と我が思い出の「残り物炊込みごはん時代」を思い出す。

 あるラーメン屋でたまたま居合わせたおじいさんが「ラーメンのあとに餃子が来るのが許せない」とキレて残していった餃子を、「それならば私が食べます」と言って引き取ったことから始まる、餃子との浅からぬ因縁も面白い。そういうことがあるんだなあと思いながら、何でも包んでしまう小宇宙「餃子」に私自身助けられた日々を思い出したり(いろんな残り物を包んで茹でて、一皿増やしたりしたものだ)。