米セントラル・パークに臨時野営病院Photo:Ben Gabbe/gettyimages

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、4月3日時点で100万人以上が感染、5万人以上が亡くなった。激震の渦中にある米国から、国際医療経済学者のアキよしかわ氏が日本の医療体制に警鐘を鳴らした。

「病院のICU(集中治療室)化」が
米国で進んでいる

 米国には病院6146施設と稼働病床92万4107床がある。しかし新型コロナウイルスの影響で、病院のベッド不足が深刻化している。

 感染はニューヨーク州やハドソン川の向かい岸のニュージャージー州で爆発的に広まっている。ニューヨーク・タイムズが集計したデータによると、現地時間4月1日夕方時点で、ニューヨーク州だけで8万3887の症例が確認されている。死者は全米で4500人を超えたが、これは2001年9月11日のアメリカ同時多発テロにおける犠牲者数を超える。州兵が動員され、町はロックアウトされ、ニューヨークのセントラルパークには野戦病院さながらのフィールドホスピタル(68床)が設営された。質の悪いゾンビ映画を見ているようだといったら不謹慎だろうか。

 フィールドホスピタルは、米陸軍工兵隊がコンベンションセンターやアリーナのような施設を利用して設営している。人工呼吸器を備え感染者の治療を行っている場所もあるが、多くのフィールドホスピタルの役割は「病院のベッドを空ける」ことにある。

 病院は、次から次へと押し寄せる感染者を受け入れるために、入院中の「新型コロナウイルス以外の軽症疾患患者」をこれらのフィールドホスピタルや宿泊施設へ移送している。緊急でない手術も、ベッドを空けるために延期されている。また医師不足を補うため、高度実践看護師(Advanced Clinical Nurse)や救命救急士が医療行為を行うことも特例的に認められている。

 感染者の8割が軽症と言われているものの、感染でどれほどの患者が入院での治療を必要とし、そのうちのどれほどの患者がより重篤化してICU(集中治療室)での治療を必要とするのであろうか。これは感染者の母数だけではなく、感染者の年令構造によっても大きく左右されるようだ。

 英国の調査では、感染者が20代以下と若ければ、入院が必要となる確率は1%未満。40代だと5%、50代だと10%、60代だと15%、70代だと20%、80代だと25%以上と5ポイントずつ上昇する。そして入院患者のうち、ICUでの治療が必要になるのは40代までは入院患者の5%ほどだが、50代、60代、70代、80代はそれぞれ10%、25%、40%、70%になると言われている。※1

 そもそも米国にはICUベッドが他国と比べて豊富にある。一般病院(5198施設)の計79万2417床の13.5%に当たる10万7276床はICUベッドである。※2 

 それでも米国はICUベッドの不足に今、危機感を抱いている。

 前述の通り、米国の病院は新型コロナウイルス以外の軽症の患者をフィールドホスピタルや近隣の宿泊施設へ移送して院内の急性期病棟のベッドを空け、それらのベッドを重篤な新型コロナ感染者の治療のためのICUベッドへと転換している。ある病院が250床のうち100床以上をICU病床にシフトするなど、まさに臨戦態勢の下、“病院そのもののICU化”が進んでいる。

※1 Impact of non-pharmaceutical interventions (NPIs) to reduce COVID-19 mortality and healthcare demand, Imperial College COVID-19 Response Team (March 16, 2020)
https://www.imperial.ac.uk/media/imperial-college/medicine/sph/ide/gida-fellowships/Imperial-College-COVID19-NPI-modelling-16-03-2020.pdf

※2 米国病院協会(AHA)https://www.aha.org/system/files/media/file/2020/01/2020-aha-hospital-fast-facts-new-Jan-2020.pdf. この数字は成人用ICU以外にNICU, PICUなど機能が異なるICU病床も含めてのもの。数的に多い上位2つ、Medical-Surgical ICUとCardiac ICUでは約7万床(約9%)