一部の有識者やインターネット上では、こうした疑念が指摘されている。小池知事自身はこの見方を否定するものの、過去の会見を振り返ると、そう捉えられても仕方のない言動があったことは事実だ。

 2016年の都知事選でぶち上げた、築地市場の豊洲への移転見直し計画を説明不足のまま撤回し、翌17年の総選挙では「希望の党」を立ち上げ惨敗。それ以降、小池知事は「五輪のホスト知事を務めることしか考えていない」(都政担当記者)と周囲からは見られていた。

 五輪の21年への延期が決まったのは、緊急記者会見の翌日の3月24日。首相公邸で実施された、安倍晋三首相とトーマス・バッハ国際五輪委員会(IOC)会長とのテレビ会談には小池知事も同席していたものの、延期の決定を報道陣に伝えたのは安倍首相だった。

 この時の小池知事は、「五輪中止」という最悪のシナリオを避けることができたため、大満足だったようだ。読売新聞によれば、小池知事は公邸で喜びのあまり安倍首相と“グータッチ”。朝日新聞は小池知事が翌25日に都の五輪担当の職員を訪れて3分間スピーチした模様を報じ、「終始上機嫌だった」と表現している。

「マラソンは東京で」のこだわり再燃
コロナ緊急会見で五輪日程に言及する不思議

 さらに、延期した五輪の具体的な開催日程がまだはっきりとしない3月27日の段階で、IOCによって昨年、開催場所が札幌市に変更されたマラソンについて、夏以外の時期の開催になれば「(東京に戻すのが)当然だと思う。都民も望んでいる」と言い切った。「感染爆発 重大局面」のパネルを誇示し、都内のロックダウン(都市封鎖)の可能性に言及した3月25日の記者会見の2日後のことである。

 そして延期した五輪の開催日が21年7月23日に決まった3月30日。小池知事はこの話題を、新型コロナウイルスに関する緊急記者会見の中で突然挟み込んだ。

 この日の緊急会見の趣旨は、都内の累計感染者数が443人に達し、感染経路不明のケースが増えていることへの警戒の呼び掛けだった。しかし、小池知事は会見中に都の内藤淳福祉保健局長の発言を「ちょっと待ってください」と遮り、「先ほど組織委員会に参りまして、バッハ会長との電話会談がございまして、そのご報告をまずさせていただきます」「開催都市の都知事であります私、森(喜朗・組織委)会長、橋本(聖子・五輪担当)大臣との間で電話会談が行われまして、2021年7月23日の開催が決定をいたしましたのでお知らせいたします」などと、感染症が専門の医師らが同席する中で滔々(とうとう)と語った。

 福祉保健局長の発言を遮ってまで、小池知事が言及したかった21年の五輪開催日の決定。ただその内容は会見前に既に報道されており、周知の事実だった。3月24日の五輪延期発表は、開催都市のトップではなく安倍首相が前面に出たことがよほど悔しかったのだろうか。30日の会見では、「開催都市の知事であります私」などという表現まで使っている。

 新型コロナにより都民の生命が脅かされていることへの警鐘を鳴らす会見には不似合いな発言で、小池知事の五輪への執着を感じさせたるには十分だった。舛添要一前知事は翌日のテレビ番組でこの発言に触れ、「緊急会見を開き、ロックダウンなどと発言したその日に五輪(に言及していて)、私はものすごい違和感を感じたんですよ」と批判した。