質問にもまともに答えない姿勢を徹底
それでも今のところコロナは“追い風”?

 そして、国の緊急事態宣言を目前に控えた4月6日の緊急会見。報道陣からは、3月21日の厚労省クラスター班の推計を踏まえ、「ロックダウンについて言及したのが、五輪延期決定後の3月25日だった。なぜ3連休(3月20~22日)に緊急会見を開いてクラスター班の予測を公表しなかったのか」との質問が出た。

 これに対して小池知事は、「クラスター班のみなさま方の熱心な予測でございますけれども、最初1万7000という数字が出たり、その次、3000が出て、その翌日、300になっていたりと、数字が大きく揺れているところもございました」などと述べ、クラスター班が推測した感染者数が大きくぶれていたことを公表しなかった理由に挙げた。まるで、クラスター班の推計が甘かったと言わんばかりである。

 ただ冒頭で触れた「都内のピーク時の外来患者数1日約4万人、入院患者数2万人超」という予測は、小池知事が自ら説明したように、根拠となる数式を国が示したのは3月6日だ。

 記者会見では、小池知事が質問にまともに答えないケースも目立つ。米国ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は毎日のように記者会見を開き、ネガティブな情報も包み隠さず公開していると評価されている。クオモ知事の行動を踏まえ、小池知事の情報発信の姿勢について問われると、「YouTubeなどを使いまして、今、都の情報を皆さんに届くようにSNSも通じまして、お届けするようにしております」などと回答しただけだった。

 小池知事は最近、「ライブ配信」と称して、知事室と思しき部屋をスタジオに見立て、医師や感染症の専門家を招いて自身が質問する動画を、都の公式動画チャンネル「東京動画」にアップし始めた。だがこれは小池知事側の一方的な情報発信だ。記者からの質問に答える記者会見とは根本的に異なる。

 記者会見では、新型コロナウイルスで本来入院すべき患者が都内の特別養護老人ホームに止め置かれていることを踏まえ、都の病床確保などの取り組みに落ち度はなかったか、と問われる場面もあった。

 だが小池知事は、落ち度があったかどうかは言及せず、「現場の人たちの負担を少しでも減らすなど、さまざま学びながら、この難局をともに乗り越えていきたいと思っております」と答えただけだった。

 想定外の事態に対し、完璧な対応は難しい。それでも、欧米での医療崩壊の事例を把握している国内の専門家もいたはずであり、都内の準備に取り組む時間的な猶予はあった。今さら都の病床確保などの医療体制について、「学びながら」ことを進めるという発言には、不安を覚えざるを得ない。

 全世界での新型コロナウイルスの蔓延はとどまるところを知らず、来年の五輪開催すら危ぶまれている。一方で今夏には、小池知事の再選がかかる都知事選も予定されている。小池知事を蛇蝎のごとく嫌っていた都議会自民党も、党本部の意向や現下の危機的な状況を踏まえ、表向き小池知事の再選を支持する姿勢を見せている。

 危機管理や安全保障をライフワークと自負し、コロナ危機が政治的な“追い風”にもなりつつある小池知事のことだ。もし今後、都内の感染者数が抑えられれば、自身の政治的な成果として最大限、アピール材料に活用される。たとえそれが、都民の協力と医療関係者の懸命な尽力の賜物であったとしても、である。

 一方で感染爆発が現実のものとなれば、五輪の中止回避で大喜びし“グータッチ”に興じていた安倍首相と同様、小池知事の責任が厳しく問われることになる。