綿密な調査に基づいた摘発の殺傷力は、すごすぎる。中国のメディアはマディ・ウォーターズのやり方を、「手を下さなければ何も起こらないが、いったん手を下すと相手の命を必ず奪う」「マディ・ウォーターズの前では、少しの隙もあってはならない」「いつまでも顕微鏡を持って、獲物になる会社をじっと見つめている」と評価している。

 マディ・ウォーターズ社の創業者はカーソン・ブロック(Carson Block)という人物だ。 彼は12歳のときから中国で働きたいと思っていた。そのため中国語の勉強を始め、「ちびっ子の中国通」と称されていたほどだった。

 28歳のとき、念願かなってようやく中国に渡った。しかし、チャイナドリームはそう簡単には掴めなかった。路頭に迷う危機的な時代に、ウォール街で中国企業に関心を持つ米国の投資家に情報を提供している父親から、「東方紙業」という中国企業の調査を頼まれた。

「殺し屋」と恐れられる
モノ言う投資家の素顔

 当時、東方紙業の株価は史上最高値を記録していた。 ウォール街の多くの投資家はこの会社に関心を見せている。ブロックの父親は、この中国系企業に投資する価値があるかどうか、息子に調べさせたのだ。ブロックは調査した結果、「東方紙業には財務や経営関連のデータ改ざんがあり、投資する価値がまったくない」という結論を出した。

 これで父親からもらった仕事は終了したが、ブロックはそこに大きなビジネスチャンスを発見し、自分で事業を起こすことにした。こうして設立したマディ・ウォーターズ社は会計、法律、財務などの関係者を含む調査チームを構成し、外部顧問として4つの法律事務所を招聘して、東方紙業に対してはさらに掘り下げて調査を行った。

 2010年6月、マディ・ウォーターズ社は30ページにも及ぶレポートを発表した。このレポートの中で、「東方紙業は2008年に27倍、2009年には40倍の収入を水増しした」と指摘した。