てっきり、著者の内澤さんが男たちのために服を選ばれるのだと思って読み出した。けれど、ちがった。初回をのぞき、実際に選んでもらうのはお店の人である。内澤さんは、顧客の要望、たとえば、どのような状況で着る服かとか、イメージとしてはタレントの誰それとか、を伝えるのがメイン。いわば介添人である。なるほど、男たるもの、自分でそういうことを細々伝えてはいかんと、おじいちゃんに教えられた。ような気がしないわけでもない。

普通に似合う服を
着ている人が大変少ない

 もともと格好のいい男たちなら、あまり選び甲斐がない。しかし、幸いにも内澤さんの周りには、“着せ替え人間”にふさわしい男がうようよいた。なんでも、ファッション誌をのぞく出版業界には、「普通に似合う服を着ている人が大変少ない」らしい。

 そんな中、栄えある一人目は、エンターテインメントノンフィクション作家仲間の宮田珠己さん。テーマはトークショーに着ていく服。その宮田さん、二十年以上前(!)に買ったというエメラルドグリーンに薄い灰色を混ぜてくすませた色のジャケットで、お店にやってきた。

“堂々と現れた宮田さん。まさかここまでとはと、絶句したくなるダサさである。これじゃその辺に落ちてる服を着せたって、大変身できるじゃん!(中略)んなっ、宮田さんには好きな色があるのか。……いやいや人間だから当然か。しかも青緑ときたもんだ。ウミウシかよ。”

 いくら宮田さんがウミウシが好きだといっても、ここまで言わんでええやないのという書きっぷりだ。で、パパッと適当に選んで着せただけで、「一見まじめそうだけど、女子大生に人気の准教授」みたいになった。

“しかしなんだろう、この快感、上手に原稿が出来たときのようではないか。ああ、メンズファッション楽しすぎる。もっと見繕いたい!ぎゃあああっ!”

 ださい格好をする男たちのBEFOREに対する強烈なダメ出しコメントと、AFTERにおける自らの陶酔感。この本の醍醐味はその大いなる落差にある。

 で、二人目は、これまたエンタメノンフィクション仲間の高野秀行さん。宮田さんも高野さんもお目にかかったことがある。残念かどうかはさておき、宮田さんのスーツ姿は想像できる。いやしくも、元リクルート社員だし。しかし、高野さんとなると不可能だ。もちろん内澤さんのコメントは壮絶。

“なにしろ高野さんは、宮田さんに勝るとも劣らない残念な服を着る男。フォーマルな格好は知らないけれど、カジュアルな服に関しては、いつ会っても訳がわからないというか、形容しがたい残念感と怪しさに包まれている。”

 形容しがたい残念感と怪しさって、これ以上というか、これ以下はないというかのコメントだ。その高野さんが『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞を受賞され、その式に着ていくための服を買いにいくことに。そこで、スーツ・ソムリエ鴨田さんに出会う。さすがはソムリエ、高野さんのビジュアルだけでなく、本まで読んで予習しておられたというからすごい。もちろん、スーツはドンピシャリ。