時を同じくするようにデパートのリニューアルブームが起きました。女性客にアピールするためにと、リニューアルに合わせてデパートのトイレに続々とウォシュレットが導入されていきました。
こうして商業施設のトイレが進化したことで、公共トイレにもじわりと変革の波が押し寄せてきます。
トイレの多機能化が進んだ平成時代
商業施設のトイレに比べると遅れを取っていた駅などの公共トイレですが、平成6年(1994年)に施行された「ハートビル法」による後押しで、大きく進化していきました。この法律は、高齢者や障がい者が円滑に利用できる建築物の建築を促進する、という目的で制定されたものです。
多くの人が集まる特定建築物に関して、整備するための努力目標が課せられました。ここに「公衆便所」が含まれていたので、法律施行以降に作られた新たな施設やリニューアルされた公共トイレは、車いすに対応できるスペースがあり、手すりなども配置されたかたちの“多目的トイレ”が必ず設置されるようになりました。これをきっかけに多目的トイレの数は飛躍的に増えていったのです。
この動きは、見えていなかった問題の可視化にもつながっていきます。
平成12年(2000年)に施行された「交通バリアフリー法」では、公共交通機関の旅客施設に車いすやオストメイト対応トイレを設置するよう定められています。これによって、多目的トイレに汚物洗浄用のシンクなどが設置され、オストメイトを表すピクトグラムが作られていく過程で社会の理解は進んでいきました。平成15年(2003年)に改正されたハートビル法と、交通バリアフリー法が平成18年(2006年)に統合され、「バリアフリー新法」が施行されました。法律が改正されるたびにトイレのバリアフリー化も進んでいきます。ハートビル法施行時には対象外だったオフィスビルも、現在では特定建築物に含まれています。
平成の30年間は、法律によって公共トイレの多目的化が一気に進んだ時代だったと言えるでしょう。
可視化していく、トイレの多様な問題
さて、法律によって多目的トイレが増えたことで「誰もが使いやすいトイレ」が実現できたでしょうか?
まだその状態にはなっていない、進化過程にあるというのが実際のところでしょう。公共トイレを利用する人は実にさまざまであり、トイレに関して抱えている問題も多様です。公共トイレのバリアフリー化が進んだことで、さらにいろいろな問題が可視化され始めているのが、現在の状況です。
では、どのような問題が可視化され始めているのかを列挙してみましょう。