まずは「多目的トイレの混雑問題」です。

 多目的トイレを利用したいと考える人が増える一方、かなり広い空間を必要とする多目的トイレの設置数は限られていて、「利用したい」というニーズに対応しきれていない状態です。トランスジェンダーの方が「(多目的トイレを)利用しづらい」と考える理由のひとつも、この「利用者増」にあります。

 そこで考えられたのが「機能分散型」です。男女それぞれ、通常よりも少し広めの個室に、多目的トイレの一部の機能(ベビーチェア、オムツ替えシートなど)を分散する試みが進みました。これにより、多目的トイレの混雑解消には効果があったものの、今度は異性介護のニーズに応えられていないという問題が生じました。高齢者や障がい者、発達障がいの子どもなどは、異性が付き添う場合も多いのです。そのため、新しく作られる施設では、車いす対応の広い多目的トイレとは別に、機能分散させた多機能トイレを男女共用の空間に設置する例が増えてきています。

 男女によるトイレの混雑格差や、トランスジェンダーなど性的マイノリティへの配慮から、全てを個室にする「トイレのジェンダーフリー化」を歓迎する風潮も一部にあります。既に実践している先進的な施設もあります。これは、一見、正しいことのように思えますが、小便器に比べると男性の(トイレ)占有時間も長くなってしまうので、結果的にトイレの待ち時間が長くなって、誰もが使いづらくなるという可能性も考えられます。

 「誰もが使いやすいトイレ」を実現するのは、なかなか困難な道のりだということはご理解いただけましたでしょうか。とはいえ、公共トイレがどんどんきれいになり、居心地のよい空間へと進化し続けているのも事実です。トイレメーカーも、公共トイレを設置・管理する人たちも、今後もより多くの人に対応できるトイレに進化させる努力を続けていくでしょう。しかし、「誰もが使いやすいトイレ」を実現するためには、利用する私たちに求められることも大きいです。

 自宅のトイレとは違い、公共のトイレは、掃除・管理する人の顔が見えません。それゆえに乱暴な使い方をしたり、汚してしまう方も少なくありません。しかし、公共トイレを掃除・管理しているのも、利用者と同じ人間なのです。私たちが気持ち良く利用できるように誰かが掃除をしてくれていることを忘れないようにして、トイレを、きれいに、丁寧に使うことを心がけていくべきでしょう。

 公共トイレの進化の過程を頭におき、新しい施設のトイレをご覧になってください。メーカーの工夫、掃除・管理する人の努力が見えてくるはずですから。

※本稿は、インクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」の掲載記事を転載(一部加筆修正)したものです。