財務省の駐車場に入り、そのままエレベーターで事務次官室のある5階に上がった。
部屋に入ると財務大臣の中原、そして事務次官の田村が座っている。
「座ってくれたまえ」
中原財務大臣は森嶋を見て言った。
「きみかね、インターナショナル・リンクのCEOビクター・ダラスを知っているのは」
「何度か会ったことはあります」
森嶋は言ってから、優美子のほうを盗み見た。優美子は視線を反らせたが、すまなさそうな顔をしている。
「私を彼に会わせてはくれないか」
えっ、という顔で中原を見た。電話して財務省に呼べばすむものだ。
「日本国民は現在の状況を正確に把握していない」
森嶋が戸惑っていると中原が言った。
「どういうことですか」
「我が国は破綻寸前だということだ。すでに片足を、いや両足が破綻の沼に入り込んでいる。世界のヘッジファンドが日本を食い荒らしている。あとチョットの風で坂道を転がり落ちていく。現在の円売り、国債売りには歯止めが付けられない。いくら日銀が介入してもだ。普通の経済的視点からは考えられんことだ。明らかに矛盾していることが多すぎる」
森嶋はロバートの言葉を思い出していた。
「背後に中国が控えている。日本人は日本はアメリカの属国になっていると言うが、中国が目の前に迫っていることに気がつかないのか。中国は日本を経済破綻に追い込み、いずれ援助という形で入り込んでくる。気がついたときには、中国の最東の地、日本省が出来あがっている」
「そのカギを握っているのがインターナショナル・リンクだというのですか」
森嶋の言葉に、中原は森嶋を見つめて頷いた。
「世界のヘッジファンドと投資家がダラスの発表を待っている。その内容如何によって、ハゲタカどもが一斉に日本に襲いかかってくる」
「彼らの意思を変えさせるのは難しい。昔、大臣は新聞で言っておられました」
「真実に基づいた正しい評価をさせることは出来る」
大臣の言葉には切実さが感じられた。
森嶋は最善を尽くすことを約束して財務省を後にした。