「ひどいな」

 総理は低い声で呟いた。

 執務室の大型テレビには渋谷駅が映っていた。

 地震から12時間がすぎているにもかかわらず、駅前には人が溢れている。

 やはり、JR、地下鉄、バスを含めて都心の交通網が全面的に止まっているのだ。

「帰宅困難者は避難所に収容するように伝えろ」

「すでに通達は出していますが、受け入れは難しいと断わっているところもあります。避難所の多くでは前回の地震で備蓄品を使い果たし、まだ十分な補充が出来ていません」

「食料、水、医薬品、毛布など最小限のモノは近隣の県に支援を求めろ」

「やっていますが、今回、高速道路の一部が落ち、鉄道も車両が何両か脱線しています。都内の交通は止まったままです」

「前回の地震より、かなり小さいはずだぞ」

「マグニチュードは5.9です。震度は6弱が最高です。地震の規模としては前のモノより小さいです。しかし、被害状況は前の地震と同じか、それ以上だと推定されます。前回の地震で崩壊し、まだ修理中だったところが多数崩壊しています。かなりダメージを受けているところがある証拠です。この程度の地震で崩壊するようでは、建物、道路、高架橋、すべてを全面的に見直す必要があります」

「経済にも大きな影響が出ています。工場の操業停止、その他の企業も開店休業の状態です。さらに、円がまた下がり始めました。国債の金利も上昇傾向が見られます」

「銀行も証券取引所も閉まってるはずだろ」

「海外の取引所、店舗は開いています。ニューヨークもロンドンも円売りが加速しています。さらに、中国の円売りと国債売りが止まりません。このままだと、国内の銀行も投資家たちも中国に引きずられる可能性があります」

「国内までもか──。なにか打つ手はないのか」

 総理は苦渋に満ちた声を出した。

 地震を境にして、世論の流れは大きく変わっていった。