文芸春秋に入社して2018年に退社するまで40年間。『週刊文春』『文芸春秋』編集長を務め、週刊誌報道の一線に身を置いてきた筆者が語る「あの事件の舞台裏」。1998年に起きた通称・和歌山カレー事件の現場でも、スクープを連発したのは女性記者たちだった。(元週刊文春編集長、岐阜女子大学副学長 木俣正剛)

『噂の真相』からも一目置かれた
“文春四天王”の女性記者たち

厳しい報道合戦となった和歌山カレー事件。文春の女性記者たちはすさまじい取材能力を発揮した。写真は現場検証を前に報道陣に公開された夏祭り会場の再現現場厳しい報道合戦となった和歌山カレー事件。文春の女性記者たちはすさまじい取材能力を発揮した。写真は現場検証を前に報道陣に公開された夏祭り会場の再現現場 Photo:JIJI

 当時の週刊誌業界には、厳しいチェック機能が存在しました。『噂の真相』という雑誌です。報道の信憑性はともかく、毎号、雑誌誌面や編集者の個人的所業まで書くのですから、やはり、自分に厳しくするしかありません。

 そんな『噂の真相』に褒められていたのが“文春四天王”。大活躍の女性記者4人のことを、こう呼んだのです。

 四天王の1人は前回書いた少年Aの森下。次は金子かおり記者です。

 1998年、和歌山市で発生した大量殺人事件、通称・和歌山カレー事件は、男性の独壇場と思われていた事件現場で、女性記者たちがすさまじい取材能力を発揮した事件でした。

 事件発生直後からメディアの注目を浴び、マスコミ陣が取り囲んでいた林真須美(現在は死刑囚)の家に1人で乗り込んだのが、文春の金子かおり記者でした。どんな取材でも手土産を持参することを習慣にしている彼女は、子どもたちへの手土産として「花火セット」を持っていったそうです。家に招き入れられた彼女に、林は、「花火ありがとう。あなたはいい人そうだから、缶コーヒーあげるわ」。

 ただし、「青酸が入ってるかもしれへんで」。当時の報道では大量殺人に使用されカレーの毒は、青酸とされていました。

 コーヒーを飲まないわけにはいきません。一気に飲み干したそうです。

 あとになって、青酸ではなくヒ素と判明するのですが、ヒ素だということをスクープしたのも、金子記者でした。金子記者は記者に見えない雰囲気が持ち味で、誰からも心を許される特技の持ち主です。林葉直子さんと中原誠永世名人の不倫記事は、彼女と林葉さんの長い友情から生まれたものでした。裁判闘争にもなったジャニーズ批判キャンペーン(文春が勝訴)も金子記者の不思議な人脈が発端。菅直人と女性キャスターの不倫記事も彼女の人脈から出てきました。

 さて、カレー事件です。報道が本格化したころ、少年Aの独占手記を取った森下香枝記者を中心としたチームを和歌山に投入しました。チームは基本3人。森下記者と、若い女性記者(四天王の1人Wさん、一応社員記者は名前を伏せます)+若い男性記者。

 彼女たちがヒ素を飲まされた被害者たちを次々見つけ、新聞やテレビに先駆けて、独占インタビューに成功しました。