著者が投げかけている
根源的な問い
日本では4月24日発売予定の、イタリアの小説家パオロ・ジョルダーノ*によるエッセイ『コロナの時代の僕ら』の全文が期間限定で公開されていたので、早速、読んでみた。
このエッセイは、イタリアでコロナウイルスの感染が広がり、死者が急激に増えた2月下旬から3月下旬に綴られたものだという。著者は、この本の印税収入の一部を、医療研究と感染者の治療に従事する人々に寄付することを表明しているそうである。
人間は過去を忘れることによって生きている。5千万人から8千万人の命を奪ったと言われる第二世界大戦の記憶でさえも、年月の経過とともに風化していき、今やほとんどの人にとっては忘却の彼方である。
だから、「まさかの事態」はまだ始まったばかりなのだが、もしも我々が記憶に留めようと努めなければ、すべてが終わった時、今回のコロナウィルスのことも簡単に忘れ去られてしまうだろう。でも、そうすることによって、我々は本当に以前と同じ世界を再現したいのだろうか。これが、著者の投げかけている根源的な問いである。
* 小説家。トリノ生まれ。トリノ大学大学院博士課程修了。専攻は素粒子物理学。2008年、デビュー長篇となる『素数たちの孤独』は、人口6000万人のイタリアでは異例の200万部超のセールスを記録。同国最高峰のストレーガ賞、カンピエッロ文学賞新人賞など、数々の文学賞を受賞。