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「少しずつの積み重ねでしか自分を超えていけない」というのは、イチローが昨年の引退会見で自らの生き方について語った言葉です。これは子育てにおいてもまさしく当てはまります。『伸びる子どもは〇〇がすごい』(日経BP社)の著者である榎本博明氏は、習慣の威力はとてつもなく大きく、子ども時代にレジリエンスを身に付けることがいかに大事かを説きます。

読書ができない
子どもたち

 勉強でもスポーツでも仕事でも、目標に近づくためには、努力を継続する必要がある。だが、よほど根気のある者でないと継続するのは難しい。どうしても安易な方に流されがちで、つい怠け心に負けてサボってしまう。何かを継続するには強い意志の力が必要となる。

 一念発起して何かを継続的に行おうと心に決めても、怠け心が出て、「まあ、いいか」と中断してしまう。「今日くらい、いいだろう」と中断すると、それがまた癖になり、そのうちやめてしまうといったことにもなりかねない。

 これは子どもにかぎらず、大人も同じだ。

 たとえば、「これから毎日早起きしてジョギングしよう」とか「勉強しよう」とか決めても、いざ朝になって目覚まし時計が鳴ると、眠くてたまらず、「まあ、今日はいいや」と再び寝てしまう。そこで起きるには、強靱な意志の力が必要だ。

 ところが、早起きが習慣になっている人は、とくに意志の力を発揮しなくても、ごく自然に早起きができる。そして、ジョギングあるいは机に向かうのが習慣になっていれば、当たり前のように行動に移せる。それを継続するのに意志の力をそれほど必要としない。

 習慣形成の意義は、まさにそこにある。習慣形成によって、意志の力なしに、ほぼ自動的に望ましい行動が取れるようになるのである。

 教育現場にいると、学生たちに読書習慣が欠けているのを痛切に感じる。私たちは言葉でものを考える。だから、言葉を取り込むきっかけとなる読書をしないというのは、思考力を身につけるという点において非常に深刻な問題である。

 そんな話を授業中にすると、刺激を受けた学生が、「どうしたら本を読めるようになりますか」「本を読んだことがないんですけど、まずはどんな本を読んだらいいですか」などと相談に来る。

 本を読んだことのない学生が、いきなり難解な本を読めるわけがないし、読みやすい本にしても長時間の読書は難しい。

 そこで、最小限の意志の力で可能な、読みやすい本の例をいくつか紹介しつつ、「電車に乗っているとき、スマホをいじるのを10分だけやめて、本を読むようにしたらどうか」などとアドバイスする。それで徐々に読書時間を延ばしていった学生もいるが、2週間後に挫折した学生もいる。

 一方で、中高生の頃から読書習慣が身についている学生は、とくに意志の力を借りなくても、ごくふつうに本を読むことができる。だが、読書習慣のない学生があまりに多いため、私は関連書籍を読んで意見・感想をまとめるという課題レポートを数年前に廃止した。

 ネットであらすじを調べていい加減なことを書く学生たちに、きちんと自分で読むように言ったところ、「そう言われても無理なんです。読めないんです」といった声が多かったからだ。

 習慣の力の偉大さは、教育現場にいる人間ならだれもが経験しているものである。子ども時代の習慣形成というと、食習慣や睡眠習慣、運動習慣といった基本的な生活習慣を身につけさせることを思い浮かべる人が多いかもしれないが、社会的に望ましい行動を自らとれるようになるための習慣形成の威力も侮れない。