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動き出した
現場発の風土改革
――全社を挙げた改革の中で特に見逃せないのは、「次長・課長会」という有志から始まった自主活動ですね。
先ほど役員同士の交流があまりなかったと申し上げましたが、それは部長・次長・課長などのミドル層も同じで、会議以外の席では部門交流がほとんどない状態でした。
しかし、我々経営陣が役員合宿や研修会などで意識改革を進めていくうちに、本社所属のミドルたちの中から「じゃあ自分たちも」という声が上がり、自発的な部門交流活動が始まったのです。
――ここから「出前教室(注1)」や「あしながおじさん(注2)」「社内インターンシップ(注3)」「ムラタ用語辞典(注4)」などの具体的活動がスタートしたのですね。
そうです。特に現場のリーダーである次長・課長クラスのメンバーが率先してアイデアを出し、新人からベテランまでを巻き込んださまざまな交流活動を立ち上げてくれました。部門も職種も違う多様な人間が集まることでコミュニケーションが活性化しただけでなく、日常の業務だけではけっして得られない学びと刺激を受けられる貴重な機会となりました。
それから10年以上経過した現在は、これらの自主活動の中には一定の役割を終えて終了したものもあります。ですが、もうこれがなくても大丈夫と思えるほど、いまでは現場のコミュニケーションレベルが上がり、部門間の交流や連携が頻発しています。その意味でも、この現場発の活動が会社全体によりよい変化をもたらしてくれたと思っています。
――技術部門でも「MIRAI活動」という新たな活動が動き出しましたね。
「MIRAI活動」は、技術・事業開発部門で始まった、仕事の自由度を高めるための活動です。通常業務とは違う新たなアイデアがあれば、みずから手を挙げて提案することができる仕組みですが、実際にそれが事業と認められれば、開発担当として従事することもできます。
――生産部門では、自主活動に端を発し、「改善士(注5)」といった新たな社内資格が生まれました。
あくまでも社内資格ではありますが、資格保有者には高い専門性と豊富な経験が求められます。彼らは、ムラタの生産現場に不可欠なリーダーたちです。自分たちの経験を、同僚はもちろん他工場や他部門とも共有したいという思いが形となり、社内の資格制度へと進化しました。彼ら資格保有者たちは、当社が掲げる生産プロセスの科学的管理を極め、若手の育成も担ってくれる、とても頼もしい存在です。
こうした現場の努力の積み重ねが、ムラタという会社全体を徐々に変えてくれました。もちろん、理想の経営にはまだまだほど遠いと思いますが、でも確実にいえるのは部門間の壁が低くなり、人の知恵や工夫がきちんと活きるようになってきたということです。これも従業員たちのおかげです。
注1)違う部署に出向き、専門の知見などを伝え合う。
注2)新入社員のメンターとなり、相談に乗る。
注3)期間限定で別の仕事を体験留学する。
注4)世間では使われていないムラタの専門用語を調べられるツール。
注5) 科学的な手法で生産現場のコストや作業員の行動などを分析、現場の生産性改善を担う。