何かをコツコツと
少しずつ積み上げていく力

――村田さんが経営のカン・コツ・ツボをつかまれたのはいつでしょうか。

 私は大学の経済学部卒業後に当社に入り、その後は製造技術畑と営業技術畑を長く経験しました。アメリカ、出雲、ドイツといった具合に、本社の周辺部をグルグル回っていたので、本体の経営とは無縁だったのです。創業者である父は70歳まで社長をしていましたし、前社長である兄もいましたから、私が社長になるなんて、まったく思ってもいませんでした。

 それでもバトンが回ってきてしまったのですが、先ほど申し上げた通り、私はけっして戦略思考の経営者ではありません。一連の風土改革は従業員みんなが頑張ってくれたから実現したのです。私に取り柄があるとすれば、「従業員に対して安心感を与える」ということでしょうか。それだけはほかの人には負けてないかな、と思います。

――いや、だからこそ従業員の自発的な変革を引き出せたのではないですか。

「この人に任せといたらアカンから、もっと自分たちが頑張らなければ」と、従業員たちがそう思ったんでしょう(笑)。

――従業員の方々から、「社長がよく社員食堂で一緒にランチしている」というお話を聞きましたが。

 たしかに社員食堂にはよく行きますね。安くておいしいですし、何よりみんなとざっくばらんに話ができますからね。

――ところで、取締役にも執行役員にも、村田さん以外は創業家出身者が一人もいらっしゃいませんね。

 そうですね。いつになるかわかりませんが、次は創業家出身でなく、社是をしっかり受け継いでくれる人に社長のバトンを託すことになると思います。

 マトリックス組織を止め、事業部がイニシアティブを取る連結経営の体制に変更したのも、次のムラタを背負う経営人材を育成したいという思いもありました。権限と責任が分散化したマトリックス組織では、事業経営に長けた人が育ちにくいというデメリットがありましたから。人は事業とともに育つ──これを実感しています。

――お話を伺って思ったのは、ムラタのもう一つの強みは「積層する経営」というDNAではないかということです。セラミックスが数百枚も積層された主要製品が象徴するように、長い歴史の中で磨き上げた生産ノウハウと人智が幾重にも積み重なった結果、極めて模倣困難なビジネスモデルをつくり上げたのだと。

 たしかにそうかもしれません。社是の中で従業員が一番好きなフレーズが「信用の蓄積」だというのも、何かをコツコツと少しずつ積み上げていくことを大事にするDNAがあるのでしょう。何事も一歩ずつ、少しずつ進んでいく。その「積層」こそが、いまのムラタをつくり、未来のムラタへとつないでいくのです。【完】


  1. ●聞き手|森 健二  ●構成・まとめ|森 健二、宮田 和美(ダイヤモンドクォータリー編集部) 
  2. ●撮影|大島拓也