台湾でも遅延を恐れた
運転士が衝撃の事故を起こした

 列車遅延やオーバーランは、利用客の不便になることはあっても、人命に直接関わる問題ではない。むしろ、乗務員が焦ったり、パニックになったりするリスクの方がよっぽど危険だ。

 また指令員も、とっさの判断力が求められる中で、最善を尽くした指示を下して遅延・運休を発生させたのなら、それは責任追及されるべきではない。何より、安全と定時運転の優先順位は決して逆転してはならず、事実を正確に報告できて、不利益を被らない環境を醸成することが大変重要になる。

 ただし、各従業員がミスを防ぐための業務改善のPDCAに意識して取り組み、日々自己研鑽を惜しまないことが大前提だ。最善が尽くせる環境を醸成し、トップダウンでの原因究明と対策を進める、これが本来の健康的な「縦社会」のあり方だろう。

 2018年、台湾鉄道の宜蘭線特急列車で、乗客18人もの死亡者を出した鉄道事故が起きた。事故直前の車両トラブルや、制限速度のおよそ2倍、140km/hで突っ込んでいったという衝撃の内容だった。

 装置の設計ミスもあったが、運転士が安全装置を切ってしまったことも大きな問題だったこの事故は、福知山線事故を経験している我が国には決して対岸の火事とは思えないものだ。そして、ATSなどハード面だけを整備しても、事故は防げない可能性があるということを、改めて世間に知らしめた。

 グローバル化が進み鉄道技術も国境を越えて普及している現在、ハード面だけではなく、社員育成の仕組みや組織の考え方なども、今以上に垣根なく共有されなければならない。将来の進歩に期待しつつ、二度と悲惨な鉄道事故が繰り返されないことを心から願う。