「箱より人」が
経営にとって重要だ
チューリッヒの危機対応が速やかだった背景には、長年にわたる経緯がある。
チューリッヒはグループ全体では世界約215カ国で業務を展開しており、進出先国によっては災害やテロ、大規模停電、そして感染症の流行といったリスクが高い地域もある。このため、どんな不測の事態が起きても業務を途絶えさせない対策を、2000年代前半からグループ全体で模索してきた。一般にBCP(事業継続計画)と呼ばれているものだ。
特に日本は東日本大震災のような大規模災害が実際にあったし、東京五輪の期間中は首都圏のオフィス勤務が難しいことが明らかだった。チューリッヒは12年には日本法人全社で、仮想デスクトップを導入。現在は多くの従業員が平時から仮想デスクトップを使って仕事をしており、必要な時にはオフィス以外から働ける環境整備がコロナ以前に整っていた。
コールセンターについては、13年から在宅ワークの仕組みを整えてきた。これは災害対応のためだけではない。コールセンターの現場には子育てや親の介護が必要な女性の従業員が少なくない。この人たちが家庭と仕事を両立し、長く働ける仕組みを作るためにも、在宅対応の必要性が認識されてきたという。
こういった取り組みの中で、チューリッヒは重要な「気づき」を得る。
「最初は箱、つまり堅牢なオフィスをいくつ準備すれば業務を継続できるかを議論していた。だが箱があっても、働ける人がいなければ業務は続けられない。これに気づいてから論点は“箱より人”になり、誰もがどこでも働ける体制作りを目指してきた」。チューリッヒ広報部の武市陽子氏はそう説明する。
“人”については、実はチューリッヒのコールセンターで働く人には、ほかと異なる点がある。大半がチューリッヒに直接雇用されている従業員なのだ。正確な比率は開示されなかったが、派遣のような間接雇用の人はごく一部にとどまり、圧倒的多数が正社員や契約社員などの直接雇用者だ。