長く働いてもらうほうが
サービスの質が上がる

 携帯電話やインターネット通販といった業界では、コールセンター業務を外部の企業に委託し、自社の従業員ではない人がオペレーターを務めていることが多い。現場で働く人の労働環境に責任を負うのは下請け企業だが、下請けは顧客企業の要望をより重視してしまいがちだ。

 では、なぜチューリッヒは下請けを使わず、オペレーターを直接雇用しているのか。最大の要因は保険業法が業界企業に対し、保険商品の販売や契約といった業務部門を直接運営するよう求めていることだ。これは携帯電話やネット通販のような業界にはない条件だ。

 ただ、保険業界でも、コールセンターを自社で運営しているが、実際に働く人は派遣労働者のような間接雇用ということはある。にもかかわらずチューリッヒが直接雇用を重視しているのは、「自社の従業員として長年働いている人のほうが、契約者に対するサービスの質を上げられる」(広報部・武市氏)という考えによる。

 チューリッヒは日本では、電話やインターネット経由でサービスを提供するダイレクト販売の専業である。対面営業はなく、コールセンターこそが保険契約者と自社を結ぶ重要な窓口となっている。この重要部門で働く人にはなるべく長く働いて、知識とノウハウを蓄積してほしい、と考えるのは合理的な経営判断だ。この経営判断が雇用形態や、前段で紹介したようなオペレーターの柔軟な働き方につながり、今回の全面在宅化も支えている。

 つまりチューリッヒがコールセンターの宿命と考えられがちな3密からオペレーターを「解放」できたのは、経営にとって最善の選択を積み重ねた結果だ。オペレーターの健康と雇用を守る在宅化は、同時に経営そのものを守っているといえる。コロナ危機を経た今、日本の多くの企業は、3密空間でしか維持できないコールセンターを見直すだろうか。

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