北朝鮮ウオッチャーの間では今、1つの疑問が渦巻いている――金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長はどこにいるのか。金氏の不在は何の説明もないまま2週間続いており、ツイッター上では同氏が動けなくなったとか死亡したとかいった臆測が飛び交っている。
26日夜の段階では、この3代目指導者の健康状態に関する情報はほとんどない。北朝鮮で最も重要な祝日の4月15日(故・金日成主席の生誕記念日である太陽節)に金正恩氏が姿を見せなかったことから、各方面で推測ゲームが始まった。その後、同氏が心臓手術を受けたと韓国メディアが報じたことで、健康不安の臆測が一段と強まった。25日には、日本の雑誌がさらに踏み込んだ報道を行った。手術の失敗によって金正恩氏が植物状態になったというのだ。
こうしたうわさは、北朝鮮の政治的安定が1人の人物に過度に依存していることを浮き彫りにしている。金氏の健康状態に関する疑問の答えは、極めて重要な米国との核交渉や北朝鮮の対中国境の安定に重大な影響を及ぼす。
「これらの根強いうわさは、彼の健康状態が国の指導者としての能力を損ないかねないとの懸念があることを示唆している」。ワシントンのシンクタンク、ウッドロー・ウィルソン・センターで公共政策関連の特別研究員を務めるジーン・リー氏はこう語る。「1つの家系を中心にシステムが構築されてきた北朝鮮のような国の場合は、こうした懸念に常に注意を払う必要がある」
しかし、秘密主義の北朝鮮から出てくる情報は極めて限られる。それが指導者の健康状態に関するものである場合はなおさらだ。このため、長い経験を持つ専門家らができることは、仮説を立て、警戒するよう忠告し、待つことだけだ。
「これは典型的なブラックスワン(めったに起きないが、起きた場合は重大な影響を及ぼす事象)的シナリオだ」とソウルのシンクタンク、峨山政策研究院の特別研究員を務める高明鉉氏は語る。「金正恩氏が死亡している可能性は低いが、もし死亡していれば状況は激変する」
金正恩氏は、世界から隔絶された北朝鮮を率いてきた父親や祖父と同様に、何の説明もないまま姿を消したことが過去にもあった。2014年に1カ月以上姿を消した後、つえをついて現れた。12年と13年にも数週間、国民の前から姿を消した。