「それで、この都市をどこに造るつもりなのかね」
殿塚の言葉で総理は村津に視線を向けた。彼自身、最も知りたいと思い、そのくせなぜか切り出せなかったことだ。国民は、前の首都移転準備室で上がった四つの候補の一つと理解しているようだが、どうも違うような気がする。
「まずは、吉備高原はいかがでしょう」
村津は答えた。総理は不思議そうな顔をしている。今までに聞いたことのない場所だ。
「岡山県中部の高原です。面積1800ヘクタール、車で40分のところに、岡山空港があり、岡山市は新幹線が通っています。四国へも瀬戸大橋を使えば、陸続きと同じです。温暖で、地震や津波、さらには台風からも解放されます」
「岡山か。妻の実家のあるところだ。魚も果物も美味い」
「我が国の中でも最も自然災害の少ない地域です。この辺りには断層も発見されておりませんし、台風も直撃するということはありません」
しかし、と言って総理は村津を見つめた。
「東京から遠すぎはしませんかな。名古屋、大阪といった日本の中核都市からも距離がある。さらに、行政的にも問題があるのではないですか。陛下の親書押印がなければ法律の公布もままならない。その辺りはどう考えておるのかな」
「岡山空港を使えば羽田まで1時間と少しです。日に1便程度、政府専用機を飛ばすことも可能です。十分、日帰り出来ます」
「ゆかりの皇族はおられなかったか」
「すでに降嫁されていますが、昭和天皇の第四皇女がおられます。今の天皇陛下の姉にあたる方です。夫の池田隆政氏は元華族とはいえ、当時は農場主だったのでずいぶん話題になりました」
池田家はかつて岡山藩主の家系であり、戦前は侯爵家ではあった。それでも皇族が東京から遠く離れた岡山県まで嫁いできたというのは異例のことだったようだ。
しかし、その夫も2012年に肺炎で亡くなっている。