ジョン・チョイ氏(30)は当地のナイトクラブに入場した際、新型コロナ対策の手順に従った。彼はマスクを着用し、体温検査をし、入り口で個人情報を記入しようとペンを手にとった。しかし、記入用紙を眺めた際に彼は、偽名として書いたと思われる有名人たちの名前を目にした。彼のクラブ仲間たちには、個人情報を明かしたがらない理由があった。彼らの大半は、韓国の性的少数者(LGBT)コミュニティーの人々であり、その多くは今も家族や同僚に対し、LGBTであることを隠している。性別や性的傾向について伝統的な考えに固執することの多い社会の中で、色眼鏡で見られることを恐れているからだ。こうした来場者の判断は、公衆衛生部門の当局者らに課題を突き付けることになった。5月初めにソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)の男性同性愛者向けクラブやバーを訪れた29歳の男性を感染源として、計100人以上の新たな集団感染が起きたのだ。韓国の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策は初期の成功例となっているが、同国はここにきて、今回のパンデミック(感染症の世界的大流行)に伴う新たな問題分野に踏み込むことになった。それは梨泰院での集団感染に対処する際に、プライバシーと公衆衛生のバランスをどう取っていくのかという問題だ。