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「公務員採用試験」という言葉から多くの人が連想するのは、「試験勉強が過酷」「狭き門」「それでいて待遇は微妙」といったものだろう。このイメージははっきり言って古い。誤解を恐れずに言うなら、大手予備校は商売のために試験突破にオーバースペックで盛りだくさんのカリキュラムを組んでいる。この10年で公務員採用の在り方は激変した。受験者数、試験形式(難易度)、そして給与や福利厚生まで、公務員の世界は大転換が起きている。連載『第二新卒から中高年まで必見! おいしい公務員試験』の#1では、固定観念を覆す公務員の「今」に迫る。(「公務員のライト」専任講師 横溝 涼)
地方公務員の受験者数は3分の2に
国家総合職・都庁の倍率まで急落
公務員採用試験における最も象徴的な変化は、受験者数そのものの減少だ。まずは下図を見てほしい。総務省のデータによれば、地方公務員の受験者数はこの10年でおよそ3分の1も減少した。
さかのぼること10年前、地方自治体の採用試験といえば、エリートぞろいで知られる東京都庁など巨大自治体はもちろん、魅力ある民間企業が少ない地方の自治体まで、「受験者が殺到するのが当たり前」だった。しかし、現在では採用予定数を満たせない自治体が続出している。民間企業が採用力を高めたことや、働き方の多様化が進んだことで、公務員“だけ”に絞る受験生が減り、採用環境は完全に売り手市場へ移行した。
この潮流は、いわゆる“難関試験”にも及んでいる。高倍率の代表格だった「国家総合職(大卒程度)」や「東京都庁Ⅰ類B(一般方式)」は、この10年間で急落した(下図参照)。
倍率調整が入りやすい区分であるにもかかわらず、ここまで低下しているのは、公務員採用が構造的な転換点を迎えている何よりの証拠だろう。「難関だから挑戦しない」という時代は終わり、公務員は以前よりも現実的な選択肢になっているわけだ。
「知識勝負」から「人物重視」へ移行
社会人経験者の採用が拡大
受験者の減少と行政課題の複雑化により、公務員試験で問われる内容もこの10年で根本的に変わった。かつては膨大な専門知識が問われたが、現在は適性と人物面を重視する試験へ移行しているのだ。
・SPI・SCOAなどの民間型試験が急増
・専門試験は縮小または廃止へ
・面接試験の重視
・オンライン面接の導入
・社会人採用の拡大
もはや「知識を付ければ受かる」試験構造ではない。自治体が求めているのは、住民と対話し、課題を発見し、実務で動ける人物だ。行政の仕事が、10年前よりも“現場力”や“協働力”を必要とする方向へ大きくシフトしたことが理由である。
「ダイヤモンド・オンライン」の読者の多くはビジネスパーソンだろう。その中にはひそかに転職を考える人も多いのではないだろうか。その新天地として今と同じ民間企業だけを対象に考えるのは非常にもったいない。今の公務員採用試験は「新卒」だけのものではなくなっているからだ。
採用方式の変化は、受験者層にも影響を与えた。10年前の社会人採用はごく一部に限られていたが、現在は完全に一般化しており、今後もさらに増大していくことはほぼ間違いない。実際、特別区(東京23区)の「経験者採用(社会人経験者採用)試験」の合格者数は、直近5年間だけ見ても約2.5倍に増えている(下図参照)。
他の地方自治体でも、
・30代~40代の社会人経験者採用の増加
・IT、不動産、財務などの“専門スキル枠”の拡大
・UターンやIターン希望者向けの移住枠の設定
といった流れが起きており、民間企業での経験を評価する傾向が強まっている。
重ねて言うが、公務員はもはや新卒だけの職場ではない。むしろ、民間経験を生かす第二キャリアの選択肢として自然に選ばれる職種へと変貌した。
間口は広がったといっても気になるのは入った後の待遇であろう。給与や福利厚生、ワーク・ライフ・バランス、そして業務の内容など、民間企業への転職と比べると見劣りすると思われがちだ。だが、近年はこちらも様変わりしている。次ページでは、そんな「おいしい公務員」の実態をつまびらかにしよう。










