つまり、日本とフィリピンの経済格差が低賃金労働者を招き寄せているのです。
ただ、日本政府は「移民労働者」を認めてきませんでした。そこで使われてきたのが「外国人技能実習制度」でした。日本で働く外国人の5人に1人がこの制度で来日しています。
外国人技能実習制度とは、「実際の実務を通じて実践的な技術や技能・知識を学び、帰国後、母国の経済発展に役立ててもらう」国際貢献の教育制度です。90年代に日本がまだ世界に冠たる技術力を有していた時代に創設されたものです。
教育制度だから、労働者ではなく「実習生」です。1年目と3年目には試験もあり勉強が必要です。とはいえ、「実際の実務を通じて」学ぶ制度だから、現場仕事が中心です。そのため、実態としては教育制度というより出稼ぎ労働者の受け入れ制度になっています。
外国人を過酷な労働条件下で働かせる人権侵害が多数発生
また、この実習制度には最初は三年という期間設定があります。逆にいえば、なにか特別なことがない限り3年は辞めないという縛りでもあります。日本側の経営者の目から見れば、あすにも辞めてしまうかもしれない日本人をひやひや雇うよりも計画が立てやすく安心です。
ところが、この制度を悪用して外国人を過酷な労働条件下で働かせる人権侵害が多数発生しました。法改正や制度の見直しなどの措置が幾度もされてきましたが、「ブラック企業」はなかなかなくなりません。そのため、実習制度はすぐにでも廃止すべきだという意見もあります。
その一方で、労働力不足は深刻化しており、それらを受けて、国会で議論され、2019年4月から新制度「特定技能」がスタートしました。しかし、新制度への移行はスムーズに進んでいないのが実状です。
そこで、トラブルから実習生を守るため、労働法違反などがないか、「監理団体」職員が会社を回ってチェックしているのです。
技能実習制度の弊害を告発するルポや報道などでは、非道な日本企業が外国人を奴隷のように酷使する心痛む実態などが取りあげられています。
しかしもちろん、それがすべてではありません。
外国人実習生と日本側雇用主の関係がうまくいくにはいくつかのパターンがあると思いますが、そのひとつに、「外国人を従業員であるとともに、家族の一員のように接する職場」があげられます。
というのも、受け入れ側の中小零細企業には年間休日日数が100日未満のところも多く、社長一家が社員に対し、仕事上のつきあいだけでなく、私生活まで面倒を見るという、家族的な関係が残っていたりします。
そして、実習生たちも多くが家族をたいせつに考える人たちです。そもそもかれらが日本に出稼ぎに来るのも、家族をあたらしい家電品や家具に囲まれて住まわせたい、新婚で家を買いたい、息子や娘たちを大学まで進学させてオフィスワークに就職させたいという強い思いからなのです。
それはどこか、高度成長期に東北の農村から都市に出稼ぎに出た労働者の心情に通じるものがあります。建設業で働く年配の日本人の目には、実習生たちはいつか自分が経てきた道にも見えます。