かつては公的サービスのみだった保育事業だが、ここ数年で環境は様変わりした。幼保一元化をはじめとする規制緩和のなか、一定条件下とはいえ民間に開放されたことは大きな進展だ。企業の参入を促そうと、自治体の支援策も活発化している。一方、認可保育所つまり公立保育園への参入は依然、障壁が大きいようだ。
「昼で終わってしまう幼稚園の午後の時間帯は、いかにももったいない。施設を保育に利用できないものか」――。こうした声は、20年も前から保育所の保護者のあいだでは日常的に交わされていた。しかし、幼稚園の管轄は文部科学省、保育所は厚生労働省。両省は水と油といわれて久しく、“統合”など考えられなかった。
幼保一元化が現実となったのは、2000年代に入ってからの規制緩和だ。急速な少子化の進行で幼稚園数が減少し始めたのとは逆に、女性の社会進出で保育所の需要は高まった。2005年から文科省と厚労省は構造改革特区として、幼稚園と保育所を一体化する幼保一元化を認め、全国30ヵ所でのモデル事業を開始。2006年から全国への導入が開始した。
幼保一元化の制度は現在、申請した幼稚園と保育所が新しい形態の「認定こども園」(幼保園とも呼ぶ)となり、幼稚園機能と保育所機能を併せ持つというものだ。設立経緯によって4タイプに分かれる。「幼保連携型」は認可幼稚園と認可保育所の連携。「幼稚園型」は認可幼稚園がいわゆる保育園児の保育時間を確保する。「保育所型」は認可保育所が幼稚園児も受け入れて幼稚園機能を備える。そして「地方裁量型」は、いずれの認可もない地域の教育・保育施設が独自の判断で進める、という位置づけとなっている。
では実際にどれだけ進んでいるのかといえば、認定こども園は現在、全国で105件。申請中が542件。東京都はわずか3件にすぎない。「制度的には実現したが、現実にはなかなか具体化していない。全国レベルでは1割に満たない」と、子育て支援政策に詳しい野村総合研究所の島村友紀コンサルタントも指摘する。「ただし、幼稚園では規制緩和によって2歳児からの受け入れが可能になったため、預かり保育のニーズは高まっている。需要としては、幼稚園側からの移行ニーズのほうが高い」(島村氏)と見ている。そのため、105件のうち幼保連携型は49件、幼稚園型は37件と大半を占める。(下の表参照)
ベネッセ次世代育成研究所が昨年、全国の幼稚園対象に行なったアンケート調査でも、私立幼稚園の26.4%がすでに2歳児を受け入れているという結果が出ている。認定こども園について、まだ申請していない私立幼稚園の理由は、「施設・設備の面で対応できない」の49.8%がトップ。物理的条件が整えば、申請の可能性が高まることを示している。