千葉は冗談のつもりで言ってるのだろうが、誰も笑わない。
「たしか、お城も公園もあったわよね」
「後楽園と備中高松城か」
「そりゃ、大昔の城だろ。羽柴秀吉の水攻めで落ちた毛利家の城だ。今は史跡公園になってるが、お城はないぞ。江戸時代の一国一城令で取り壊されたんだろう」
高松城址に残っているのは石垣の一部や、秀吉が水攻めのために築いた堰堤くらいのもので、城の痕跡はほとんどない。資料館があるただの公園だ。
後楽園は池田光政の子である綱政が完成させた庭園で、水戸の偕楽園、金沢の兼六園とならんで日本三名園として知られている。
「お城といえば岡山城だな。俺も行ったことがある」
江戸時代、岡山藩は山陽道の重要拠点として繁栄した。池田光政は水戸の徳川光圀、会津の保科正之とならんで江戸初期の三名君とも称される。光政は全国に先駆けて藩校「岡山学校」や、日本最古の庶民学校である「閑谷学校」をひらいて人材育成にも力を入れた。
「晴れの国、岡山だ。けっこういい選択かも知れない」
勝手な声が乱れ飛んでいる。