新型コロナウイルス感染拡大により、大企業を中心に多くの企業が在宅勤務に切り替えた。一方で業務の都合上、あるいは会社の制度、ICT(情報通信技術)環境の問題などでやむを得ず出勤する人もいる。在宅勤務の急速な普及の裏で見えてきた課題とは何か。また、しばらくは3密を避けようという「嫌密」の傾向が続くと考えられる中、企業や組織は在宅勤務を続けることができるのか。現状と課題を追った。(ダイヤモンド編集部 笠原里穂)
感染リスクと戦い
出勤する人の胸の内
「人と人との接触を最低7割、極力8割減らす」――。4月7日、7都府県を対象にした緊急事態宣言の発令に伴い、政府はこう呼びかけた。
新型コロナウイルス感染拡大のリスクを低下させるため、多くの企業が在宅勤務導入に踏み切った。
その一方で、外出自粛期間中も出勤を続けなければならない人たちがいる。
愛知県の介護施設で派遣看護師として仕事をしている木村容子さん(仮名)は、愛知県が緊急事態宣言の対象地域となった4月中旬も、電車とバスで片道1時間ほどかけて勤務先の有料老人ホームに通った。
入居者である高齢者の体調を管理したり、日常生活のケアを行ったりするのが木村さんの仕事だ。高熱があるなど、体調を崩した高齢者の看護にあたることもあり、日々感染リスクにさらされていると感じている。
自分が濃厚接触者になる可能性もあると考え、これまで義父の介護の手伝いで頻繁に訪れていた義実家にも、2カ月以上行っていない。不安はぬぐえないが、収入のためにもできる限り働きたい。また、慢性的に人手不足の現場を見ると、「自分やほかの看護師が出勤できない事態になってしまったら、職場が回らなくなるのではないか」(木村さん)という心配もある。
多くの企業で在宅勤務の活用が進む中、木村さんのように、日々感染リスクと戦いながら出勤を続けている人がいる。医療、交通機関、食品や生活必需品の販売、流通などの社会インフラを支える仕事に従事する、エッセンシャルワーカーと呼ばれる人たちがその最たる例だ。
一方で、在宅ワークが可能と思われる業務内容であっても、会社の制度や方針、システムの壁に阻まれ、「出勤やむなし」の状況に置かれている人も多数いた。また、非正規雇用者を中心に、「出勤しないと欠勤扱いになる」ため、生活のために出勤せざるを得ないという人も少なくない。
コールセンターに勤める契約社員の中野明子さん(仮名)は、緊急事態宣言下の4月も通常通り、1日7時間、週5日出勤した。隣席とは数十センチという「密接」空間での業務だった。電話の内容は、健康食品の売り込み営業。緊急事態宣言発令中なので当然在宅率も高く、会社の上層部は「今が稼ぎ時」と息巻いていたようだが、「この緊急事態には不要不急と思えてならなかった」(中野さん)と話す。
個人情報を取り扱うため在宅勤務はできない。同僚と「有給休暇をとって休もうかな」と話すことはあったが、口ではそう言っていても、同僚たちも皆通常通り出勤している。「自分だけ休めるような雰囲気ではなかった」(中野さん)