ブラジルでは、新型コロナウイルスの感染拡大に拍車がかかっている。ボウソナロ大統領と各州との対立もあり、収束の見通しは立たず累計の感染者数は30万人を、死亡者数も2万人を上回り、折からの景気低迷に拍車がかかっている。景気回復も見通せず、通貨レアルの低迷も続いている。(第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 主席エコノミスト 西濱 徹)
新型コロナ軽視する大統領と
都市封鎖進める州との対立
昨年末に中国で発見された新型コロナウイルスを巡っては、足元では感染拡大の中心地が新興国にシフトしている。医療インフラが脆弱(ぜいじゃく)であることに加え、今後、季節が冬に移行する南半球での感染拡大は事態収束を困難にすることが予想される。
ブラジルでは2月末にイタリアから帰国した男性が新型肺炎に感染していることが確認されたものの、しばらくは比較的落ち着いた展開が続いてきた。しかし、4月以降は同国内でも感染者数が拡大したことを受けて、州政府レベルでは都市封鎖の動きが広がり、連邦レベルでも保健省が自主隔離を呼び掛ける動きを見せた。
一方、ボウソナロ大統領は都市封鎖などに伴う景気低迷を警戒して経済活動を優先するキャンペーンを展開するなど、新型コロナウイルスを軽んじる姿勢を見せた。結果、連邦政府レベルでの防疫政策が遅れる事態を招いている。
さらに、防疫政策を巡る対立を理由に、4月にはマンデッタ元保健相が更迭されたほか、後任のタイシ前保健相も辞任するなど保健行政は混乱している。足元の感染者数及び死亡者数は拡大傾向を強めるなど事態収拾のめどが立たない状況が続いている。
なお、ボウソナロ大統領が都市封鎖や自主隔離などの防疫対策の強化に後ろ向きとなっている背景には、ここ数年のブラジル経済の低迷が大きく影響している。2000年代以降のブラジルは堅調な経済成長を追い風に、いわゆる「新興国の雄」であるBRICSの一角として注目を集めてきた。