「その件に関しては、職場で『本当に謎』とされていた。

 一度『お子さんの写真とかないんですか?』と尋ねたことがあるのだが、『そういうのは持ってないんだよね』という返事があった。

 少なくとも私の知る限りでは娘を持つパパは娘の画像を必ずスマホに入れているので、上司の『写真がない』はありえなかった。娘の存在は嘘(うそ)なのではないかと思えたくらいだが、職場の人たちとこうした件を含めて話をしても、結論は決まって『実在は証明されていないがどうやら“いるらしい”』というところに落ち着いた」(Cさん)

 霊のような扱いで噂をされているCさん上司の娘だが、「テレワーク中のハプニング」ということで、お察しの通りくだんの娘はテレビ電話中にCさんを始めとする社の人間に目撃されることとなる。この話がCさん職場にてただの目撃談で終わらなかった大きな理由は、「娘がかわいかった」からである。それもべらぼうにかわいかった。

「上司の遺伝子がほとんど入っていないんじゃないかというくらい、お子さんは可憐で、おしとやかながら華があり、かわいかった。

 相手をしてほしくて上司のところにやってきたところがカメラに映り込んだのだが、上司がお子さんに向かって『パパは今お仕事中だから、待っててね』と話しかけるのも新鮮すぎて、『この人は本当にパパなんだ!』と、通話をつなげている一同、内心驚いた」(Cさん)

 上司の「パパ」としての振る舞いや、長い間謎のベールに包まれていた娘・その人の実際の姿を目の当たりにした驚きと喜びは、おそらくCさんたちにバイアスとして強く働いたはずなので、娘のかわいさが何割増しかで目に映った可能性がある。

 ともあれ、重要なのは「Cさんたちがどう感じたか」で、それが「かわいかった」ということであるから、全体としてはポジティブなものしか生じておらず、上司も娘本人もCさんたちも皆ハッピーめでたしである。

 後日、上司は順当に「お子さんかわいいですね」と声をかけられ、その反応が(照れ隠しあってのことと思うが)「いや、別に」という仏頂面で、Cさんたちから「上司のリアクションは本当にかわいくないが、お子さんはかわいい」と陰で揶揄されるようになり現在に至る。

 とはいえ、「娘がかわいい」の一点のみをもって上司は尊敬を集め、Cさんらからは愛をもって陰口をきかれているような部分があり、とにかく娘がかわいいらしいので概ねめでたしである。

 仮に今後テレワークが一般的な働き方として定着していけば、こうしたハプニングも“あるある”として定着していくのであろう。テレワーク採用体制が始まったばかりの今この時期こそが、ありがちなハプニングを新鮮に面白がれる貴重なタイミングである。

 5月25日に緊急事態宣言が全国的に解除されたとはいえ、コロナ禍がもたらしたダメージは甚大であり、第2波も警戒され脅威は完全に去ったわけではない。気が滅入りやすい毎日が続くが、ある程度余裕がある人は“こんな時だからこそ”の日々に潜む面白さの種を積極的に見つけていくのが、心の健康にもよろしかろうと考えられる。