身の丈の経営でも厳しすぎる環境

 こうした鳥栖の状況を、実際にJリーグはどう見ているのか。Jリーグは12年度からクラブライセンス制度を導入し、競技、施設、人事体制・組織運営、法務、財務の5分野でさまざまな基準を設定。毎年行われる審査を経て、各カテゴリーを戦うために必要なライセンスを付与してきた。

 特に財務面では3期連続の単年度赤字を計上するか、あるいは一度でも債務超過に陥った時点でライセンスが失効し、J3もしくはJFLへの降格を余儀なくされる。巨大赤字を含めた2期連続の赤字を計上した鳥栖だが、借金を抱えているわけではない。竹原社長をして「大規模な」と言わしめた増資を行った結果として、純資産は2100万円を計上。債務超過は免れていることが分かる。

 Jリーグのクラブライセンス事務局は最低でも年に3回、各クラブと財務状況を確認し合っている。ゆえに鳥栖が計上する巨額な赤字も事前に把握していたのだろう。クラブライセンス事務局の村山勉マネージャーは、経営情報を開示した27日のメディア説明会でこんな言葉を残している。

「経営が破綻しないようにチェックしてきた中で、増資の計画についてはコミュニケーションが取れていました。最終的には債務超過に陥っていないので、コメントを申し上げることはありません」

 財務ルールの3期連続の単年度赤字に関しては18年に、連続赤字の最終年度における赤字額を純資産の残高が上回っていれば抵触しないと改定された。つまり鳥栖が今年度も赤字を計上したとしても、ライセンスを失う事態は生じない可能性もある。

 加えて、2月下旬から公式戦を長期中断させるなど、猛威を振るってきた新型コロナウイルスが、今年度に限っては考慮される特例も決まった。3期連続の単年度赤字および債務超過が新型コロナウイルスの影響を受けていると認められれば、財務ルール違反にはカウントされない。

 今シーズンに限っては下部カテゴリーへの降格なしも決まっている。定時株主総会の直後にオンライン形式で開催されたサポーターズミーティングで、竹原社長は時に涙ぐみながらパソコンやスマホの画面越しに頭を下げている。財務に関する新たなルールや特例に甘えるつもりは毛頭ないようだ。

「J1で戦うために背伸びをして、ご心配をおかけした事実を見つめ直して今後につなげたい。人件費を削って、よくご指摘される身の丈に合った経営で確実な未来を築けるようにしたい」

 言葉通りにオフには16人もの選手が引退または退団。結果としてチーム人件費を半分以下となる、11億6900万円にまで圧縮した予算を編成した。08年からユニフォームの胸のスポンサーを務めてきたDHCも1月で撤退した中で、それでもスポンサー収入を前年度より多い9億5500万円で組んでいる。

「いかなる手段を取ってでも、クラブを存続させるために全力で努力をする。それが市中銀行から受ける融資なのか、さまざまな寄付なのか、クラウドファンディングなのか、あるいは新しい試みなのか。サガン鳥栖が持つ存在意義にかけて、最善を尽くして生き残っていくことしか考えていません」

 努めて前を見すえた竹原社長は、今年度予算が1200万円の黒字を見込んでいることも明かした。

 しかしながら、厳しい現実が待っている。緊急事態宣言が解除され、徐々に人々は生活を取り戻しつつあるが、スポーツイベントに人が集まるのか不透明だ。29日の臨時実行委員会でJ2の再開とJ3の開幕が6月27日、J1の再開が7月4日にそれぞれ決まったが、最初の数試合は無観客試合で行われ、7月10日以降は入場者数を大幅に減らしての開催が予想されている。その中で7億9000万円を見込む鳥栖の入場料収入は大幅に下振れする可能性が高い。環境は依然として厳しい。

 サポーターを前に表明した竹原社長の決意と復活への青写真が実現するか――。この先数カ月は、サガン鳥栖と鳥栖市、Jリーグだけではなく、日本のサッカー、プロスポーツの「危機耐久力」や多くの経営者が信じる「スポーツの力」が試される重要な時期となるだろう。