「目的」を置き去りにして、
トラブルを追いかけない
そもそも、現場を責め立てることに意味がありません。
現場を責め立てても、トラブルは何ひとつ解決しないのだから当然のことです。
このようなときの目的は、トラブルに適切に対応して損害を最小限に留めること以外にありません。現場を責め立てる時間は単なる無駄。トラブル・シューティングはスピードが命ですから、1秒でもはやく、問題解決に向けて動くのが鉄則です。「目的」を後ろに置き去りにして、トラブルを追いかけても何の意味もないのです。
ましてや、「だから、お前はダメなんだ」などと人格否定をするなどもってのほか。相手の「自尊心」を傷つけることほど愚かなことはないのです。
もちろん、トラブルを発生させた現場に、なんらかの問題があったことは間違いないでしょう。しかし、問題があることと人格とは無関係です。大事なのは、ビジネスの原理原則に基づいて、「何が正しくて、何が間違っているか」をともに考えて、有効な再発防止策を構築することであって、それを通り越して、相手の人格を否定して「自尊心」を傷つけるような言動に走るのは愚行というほかありません。
なぜなら、「自分は価値のある存在である」という自尊心を傷つけられた人は、必ず相手に「敵意」を抱くからです。
参謀として機能するために、最も重要な“足場”は現場にほかなりません。現場と密接に触れ合い、その現実をリーダーにフィードバックすることによって、その意思決定の精度を上げるのが参謀の務めのはず。
であれば、その任務を遂行する力を最大に棄損するのは、現場に「敵意」をもたれることにほかなりません。誰が「敵意」をもつ人間に、「本当のこと」を明かしてくれるでしょうか? 相手の「自尊心」を傷つけるようなことを、参謀は絶対に行ってはならないのです。
現場を「責め立てる」ことが、
会社を危機的な状況に追い込む
それだけではありません。
現場を責め立てることは、長期的に会社を危機的な状況に追い込むきわめて危険な行為です。
なぜなら、厳しく責め立てられた現場は、それ以降、トラブル情報を隠蔽する動機を強めてしまうからです。これが大問題を生み出します。どんなに誠実に仕事に取り組んでいても、トラブルは避け難く発生するものですから、リスク・マネジメントにおいて重要なのは、トラブルの芽が小さいうちに組織的な対応をとることです。
ところが、現場がトラブルを隠そうとすることによって、水面下でトラブルはどんどん大きくなる。そして、現場だけでは抑えきれなくなったときに、問題は噴出。組織に大きな打撃を与える結果を招くのです。
つまり、もしも、「トラブル隠し」が常態化するようなことになれば、会社は危機的な状態に陥っていくことになるということ。参謀が、感情的になった上司に同調してしまうことによって、これほどの大きな問題を生み出しかねないわけです。
だからこそ、参謀は「トラブル耐性」を鍛えておかなければなりません。どんなに深刻なトラブルが発生しても、どんなに上司が感情的になっても、肩の力を抜いて、気を確かにして、冷静に問題に対処する「胆力」を養わなければならないのです。