単なる「優秀な部下」にとどまるか、「参謀」として認められるかーー。
これは、ビジネスパーソンのキャリアを大きく分けるポイントです。では、トップが「参謀」として評価する基準は何なのか?それを、世界No.1企業であるブリヂストン元CEOの荒川詔四氏にまとめていただいたのが、『参謀の思考法』(ダイヤモンド社)。
ご自身が40代で社長の「参謀役」を務め、アメリカ名門企業「ファイアストン」の買収という一大事業に深く関わったほか、タイ法人、ヨーロッパ法人、そして本社CEOとして参謀を求めた経験を踏まえた、超実践的な「参謀論」です。本連載では、本書から抜粋しながら、「参謀」として認められ、キャリアを切り開くうえで、欠かすことのできない「考え方」「スタンス」をお伝えしてまいります。
上司の「感情」に、
絶対に同調してはならない
トラブル耐性があるかどうか――。
これも、私が社長だったときに、社内の人材について、参謀として適格か否かを判断する重要なポイントでした。
というのは、参謀がサポートする上司の重要な任務がトラブル処理だからです。しかも、上司の役職が上がれば上がるほど、解決困難なトラブルが舞い込んでくることが増えていきます。現場では解決しきれないトラブル対応に課長が当たり、課長の手に負えなければ部長、役員、社長へと上がってくるのですから、それは当然のことでしょう。
つまり、トラブル対応こそが上司の重要な任務であり、それをサポートするのが参謀ということ。トラブル耐性のない人物が、参謀としての役割を果たせるわけがないのです。
ところが、なかには、トラブル報告を受けると、感情的に反応する上司がいるものです。私にすれば、言語道断。「何のために、あなたは部下より高い給料をもらっているのか?」と問い詰めたくなりますが、それでなくても日々重責を感じている上司にすれば、トラブルを発生させた現場に鬱憤をぶつけたくなってしまう気持ちもわからないではありません。
しかし、参謀は、上司ほどの重責を担わされているわけではありませんから、より冷静に対応できるはずです。むしろ、感情的になった上司を冷静にさせることこそが参謀の役割だと考えるべきなのです。
にもかかわらず、参謀的ポジションであるはずの人物が、上司に同調してわめき立てるようなシーンをしばしば見かけました。ネチネチと責め立てたり、感情的に怒鳴りつけたり、「だから、お前はダメなんだ」などと人格否定にまで走ったり……。実に見苦しいことです。
同調することで、上司の意を汲んでいるつもりなのかもしれませんが、それでは、上司を守ることにならないうえに、組織を危機的な状況に追い込むことにしかなりません。むしろ、まず自分自身が、肩の力を抜いて、気を確かにして、全体状況を「眺める」ことが大事。そして、冷静な議論をうながすべきなのです。
世界最大のタイヤメーカー株式会社ブリヂストン元代表取締役社長
1944年山形県生まれ。東京外国語大学外国語学部インドシナ語学科卒業後、ブリヂストンタイヤ(のちにブリヂストン)入社。タイ、中近東、中国、ヨーロッパなどでキャリアを積むなど、海外事業に多大な貢献をする。40代で現場の課長職についていたころ、突如、社長直属の秘書課長を拝命。アメリカの国民的企業ファイアストンの買収・経営統合を進める社長の「参謀役」として、その実務を全面的にサポートする。その後、タイ現地法人社長、ヨーロッパ現地法人社長、本社副社長などを経て、同社がフランスのミシュランを抜いて世界トップの地位を奪還した翌年、2006年に本社社長に就任。世界約14万人の従業員を率い、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災などの危機をくぐりぬけ、世界ナンバーワン企業としての基盤を築く。2012年3月に会長就任。2013年3月に相談役に退いた。キリンホールディングス株式会社社外取締役、日本経済新聞社社外監査役などを歴任。著書に『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)がある。