「電波状態はよさそうだ。電話は終わったのかね」
森嶋の横に村津がやってきた。
「村津さん、早苗さんは」
「最近、連絡を取っていない。あいつも急がしいのだろう」
「アメリカ、ワシントンDCですか」
えっ、という顔で村津が森嶋を見た。
「早苗さんは一時期マサチューセッツ工科大学にいらっしゃいましたね。ハーバードもあるボストンに住んでたわけだ。そして日本に帰って、長谷川建築事務所に就職した」
村津が森嶋のほうに向きなおった。
「僕の論文は早苗さんが送ってきたんでしょ」
「もう忘れた。しかし、斬新な論文があると言っていたのは覚えている。たしかに興味あるものだった」
「早苗さんとロバートに接点があったと考えるのはどうです。そして彼女を通じて、あなたもね」
「面白い話ではあるな。しかし何が言いたいのかね」
「何もありません。すべては上手くいっています。コワいほどに」
森嶋はしばらく草原の方に視線を向けた。そしてやがて、重い口を開いた。
「僕は吉備高原の土地を買い占めた企業と個人について調べました。国交省にいれば簡単なことです。最初、これが目的だったかと思いました。しかし企業と個人は、取得していた土地のすべてをすんなりと国に譲り渡した。驚いたことに、まったく儲けを度外視してね。こんなことあり得ません。僕は何か不正があるのであれば、告発するつもりでした。それもない。すべてが善意のもとで行なわれている」
「いい話を聞かせてくれた」