「あなたにとって、触れられたくない話ではないのですか」
「そうだろうな。しかしこれでますますきみの評価は上がったよ。むしろ説明する世話が省けたと思っている。機会があれば、話さなければならないことだと思っていた。いずれ、きみはこのグループで私に代わる存在になるのだから」
村津は何の気負いをもなく、淡々とした口調で話している。
「村津さん、どうしてここを新首都にと思ったんですか」
「もう言い尽している」
「別な理由があるのではないかと思って」
前から聞いておきたかったことだ。森嶋にはどうしても、村津が公に話した理由だけだとは思えなかったのだ。
村津はしばらく無言で高原を見ている。山と森と空がほどよく調和した空間だ。
「国交省を退官して、妻に死なれ、妻の遺骨を納骨して旅に出た。その折り、この高原を見た。良く晴れた日で、私にはこの地が特別な地のような気がしたんだ。新しい出発の土地だ。その思いが私を突き動かした」
村津は高原に目を向けたまま言った。
森嶋は村津の視線の先にあるものを見定めるように、もう一度前方に広がる高原に目を向けた。