エピローグ
森嶋、優美子、理沙の3人は、森嶋のマンション前のコーヒーショップにいた。森嶋は来週から吉備高原に長期出張が決まっている。
「あなたたち、すごいわね。もうグループリーダーなんだって。本省の課長クラスって聞いてる。さすがキャリアね」
「責任重大なポストです。自分でも驚いてます」
「分かってるわよ」
「理沙さんも、社長賞をもらったんでしょ。首都移転のスクープで」
「感謝してるわよ。だからご馳走してるじゃない」
「これがご馳走ですか」
優美子は目の前のケーキとコーヒーに目を移した。
そのとき、森嶋の携帯電話が鳴り始めた。
〈いま羽田に着いた。きみには知らせておこうと思ってね。近く岡山に行くんだろ〉
「家族と神戸じゃなかったのか」
〈2人とも東京がいいというんだ。特に子どもが友達と別れたくないと。自分だけ逃げだすのがイヤなんだろ〉
「その気持ち、分からなくもない」
〈僕はしばらく東京と神戸を行ったり来たりだ。すぐに、大学と京コンピュータシステムを結ぶ。そうなれば神戸に出向く必要もない〉
「おまえも東京のほうがいいか」
〈準備さえ整えておけば、地震はさほど恐ろしいものじゃない。新首都からのバックアップ体制を確立しておけば〉
口では言っているが人一倍、恐ろしさを知っているはずだ。
背後で、パパ早く帰ろうという子どもの声が聞こえる。
岡山に行く前に会おう、という言葉で電話は切れた。
「高脇さんね。彼、東京に帰ってくるの」
「そうらしい。ここが好きなんだろう。この地で日本を護りたいらしい」
日本を護るという言葉が心地よく森嶋の胸に響いた。