わが国にとっても、韓国のケースは決して“他山の石”とばかりは言えない。米中対立の中で、どのように自国の存在感を高め双方からのリスペクトを得るか、真摯に向き合っていく必要がある。

韓国経済における
サムスン電子の存在感

 韓国経済において、サムスン電子が放つ存在感は圧倒的だ。かつて、同社の売上高は韓国のGDP(国内総生産)の2割程度に達した。現在、その割合は15%程度とみられるが、依然として韓国経済における存在感は群を抜いている。また、韓国の株式市場の時価総額に占めるサムスン電子の割合は30%程度に達する。主要国でそうした状況は見当たらない。

 特定企業による市場の寡占化は、経済格差を深刻化させる。さらに、その状況が続くことで格差が固定化されてしまう。経済格差問題が深刻化すれば、資産や経済的な力を持つ者が富み、そうでない人の生活は苦しさを増す。不満を感じる人が増えれば、国全体に閉塞感が充満し、社会・経済は停滞する。その状況を解消するためには、規制緩和によって起業を支援したり、特定の大企業の解体などを通して競争原理が発揮されやすい状況を目指したりすることが欠かせない。

 当初、文大統領はその考えを重視したかに見えた。文氏は大統領選挙戦の中で財閥企業の解体などによって公平な経済を目指すと主張した。その主張は、就業機会が限られ、経済格差の固定化にあえいできた学生や市民などの支持を掬い取ることにはつながった。

 問題は、文氏が表面的に構造改革の重要性を訴えはしたものの、実際に財閥企業の解体など大胆な方策を実行できなかったことだ。その理由は、サムスン電子の経済力があまりに大きいため、仮に同社の分社化などを進めた場合に韓国の労働市場や所得環境にかなりのマイナスの影響が及ぶ恐れがあることだろう。

 また、韓国にはサムスン電子1社に比肩する企業も見当たらない。同社は世界のDRAM市場で40%超の圧倒的シェアを誇る。現実的に考えた場合、必要なことだとわかってはいても、為政者がサムスン電子による経済支配というべき状況の是正を目指すことはかなり難しい。その結果として、文政権の政策は構造改革を重視したものから、持つ者から持たざる者へ所得を政府の力によって強制的に移す政策にシフトせざるを得なくなった。一例に、最低賃金の引き上げは、韓国経済の体力を低下させた。