夢の薬と騒がれたがん免疫治療薬「オプジーボ」の特許の対価を巡り、ノーベル賞受賞の本庶佑・京都大学特別教授が小野薬品工業を提訴すると表明した。本庶氏は「支払い約束の不履行」を糾弾すると共に「特許の対価が低過ぎる」と訴えているが、製薬業界では職務発明対価の相場や判例などを根拠に小野薬品を擁護する向きも一部にある。シーズを産むアカデミアと、製品化し販売する企業で、価値観が対立している。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)
ノーベル賞VS中堅製薬企業
特許対価を巡り月内訴訟へ
毎年数兆円規模で製薬企業(米メルク)の売上高に貢献しているにもかかわらず、発明者に売上高の0.1%にも及ばない配分の提案しかなされていない“異常な状態”にある――。
記者会見で配られた資料には、本庶佑・京都大学特別教授の怒りに満ちたコメントが書かれていた。
夢の薬と騒がれたがん免疫治療薬「オプジーボ」の誕生に欠かせなかったPD-1分子を発見し機能を解明した功績で、本庶氏がノーベル医学生理学賞を受賞したのは2018年。その頃から法廷闘争を予言する業界関係者は少なからずいたが、当のオプジーボの貢献で業績好調な小野薬品工業の経営陣は今どのような心境だろう。
オプジーボの特許の対価(ロイヤルティー)を巡り、共有特許権を持つ本庶氏がオプジーボを製造販売する小野薬品に226億円の支払いを求め、大阪地裁に近日中に提訴する(本稿執筆の15日時点)。本庶氏が米メルクとの特許侵害訴訟に協力する代わりとして小野薬品が申し出た金銭の支払いが40分の1しか履行されていないため、残額の支払い(今回の請求範囲は17~19年分)を求める趣旨だ。
本庶氏が籍を置く京都大学も「この知的貢献が社会的に適正に評価され、その知的貢献を生み出した研究活動に対し適正な還元がなされ、もって、さらなる知の創出へとつながるような司法の判断を期待したい」とコメントを出した。まさに「アカデミアvs企業」の全面対決の様相である。
本庶氏側の説明によると、これまでの両者の「ボタンのかけ違い」は大きく二つある。