業界王者、武田薬品の
職務発明対価は0.025%!

 本庶氏の提訴会見を受けて、製薬業界の反応はさまざまだ。

 ある製薬企業の社員は06年当時の契約について、「実用化が見通せない時期の対価に相場はなく、是非は何とも言えない」と話す。別の社員は「交渉の過程で何があったかは知らないが、最終的には両者がサインした契約書がすべて。本庶先生がごねるほど、今後の国内産学連携に悪影響」とにべもない。

 本庶氏のような社外の発明者に対する対価と単純に比較はできないが、製薬企業の社内の発明者(職務発明者)に対する対価の相場観と照らし合わせると、小野薬品の提案内容に納得する人もいる。

「0.75%~2%も支払うと言うなら、小野薬品は全くもって良心的じゃないか」と話すのは、国内製薬トップ、武田薬品工業に数年前まで勤めた元研究員だ。

 この元研究員によると、青色発光ダイオード(LED)の発明対価を巡る訴訟(04年の一審判決で日亜化学工業に200億円支払い命令、控訴審は8億4000万円の支払いで05年に和解)を受け、武田薬品社内では職務発明対価の社内規定がより明確化されたという。

 ただしその社内規定は「売上高の0.025%×変数」(変数は技術の優位性や他社との権利問題の有無などで評価され、1以下)。これはアイルランドの大手バイオ医薬、シャイアーを買収して世界有数のメガファーマ(巨大製薬企業)となった現在も変わっていない。

 これでは年1000億円以上売り上げる大型製品(業界用語でブロックバスター)に育っても、「毎年2500万円前後」という計算になる。さらに共同発明者がいれば、貢献比率で比例配分される。

 ただし一般論として、職務発明の場合は対価に不満があったとしても、企業に在籍する限りは処遇や賃金上昇で、「実質的な対価」が補てんされる望みがある。そもそも企業が職務発明者に提供してきた研究環境や賞与などで、対価の一部は相殺されているとの考え方もある。