契約不服とメルク訴訟の協力対価
本庶氏の提訴背景に「二つの理由」

 一つ目はこうだ。

 06年に小野薬品とライセンス契約した際の対価は、「オプジーボ売上高の約0.75%」など。その後、本庶氏が「低過ぎる」と契約内容に不服を表明し、小野薬品は13年、「自社のオプジーボ売上高の2%、米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)のオプジーボ売上高のうち小野薬品が受け取る額の10%」に引き上げる提案をしたが、それでも折り合いがつかなかった。

 この修正提案に関してドラフトや多数のメールのやり取りが残っているといい、本庶氏側は「少なくともそれらの条件を小野薬品は確約した」と主張する。小野薬品は「合意に至らず、18年11月に『対価の上乗せという枠組みではなく将来の基礎研究の促進や若手研究者の育成に資する趣旨から京都大学への寄付を検討している旨』を申し入れた」(編集部注:本庶氏側説明では寄付額は最大300億円)と相容れない。

 今回起こす裁判の争点である、二つ目はこうだ。

 競合の米メルクのがん免疫治療薬「キイトルーダ」が本庶氏らの持つ特許を侵害しているとして小野薬品とBMSは14年ごろから複数の対メルク訴訟を起こした。一方で小野薬品の相良暁社長は14年9月、本庶氏の研究室を訪れ、「本庶先生のご協力が必須。第三者と訴訟して得た金銭についてはBMSが75%、小野薬品が25%の割合で分ける合意がある。本庶先生には小野薬品が得る金銭の40%(すなわち全体の10%)を支払う」旨を述べ、訴訟への協力を要請したという。

 本庶氏は訴訟に協力し、17年1月に小野薬品・BMSの勝訴的和解(23年まではキイトルーダの売上高の6.5%、その後26年までは同2.5%を特許使用料として支払うなど)に至った。だが小野薬品は17年8月、何の説明もなく一方的に、「40%ではなく1%相当額」を支払う旨を通知してきた。小野薬品からその後も説明は一切ないという。

 メルク社のキイトルーダの売上高(19年1.2兆円)を基準にすれば、本庶氏の取り分はそのわずか「0.01625%」に過ぎない。発明者としての貢献も、訴訟協力の価値も無視した異常な数字だとして冒頭の怒りのコメントとなった。