ガバナンス改善と経営の透明性
企業は次のフェーズに進むべき

 2018年は日本の大手企業で、品質不正、経営トップの人事や報酬に関わる不透明な決定プロセスなどの問題が次々と表面化しました。日本企業のガバナンス改革は依然として進んでいないのでしょうか。

酒井:3年ぶりに改訂されたコーポレートガバナンス・コードが、2018年6月から適用開始され、改革が一段と進むと見られていた矢先だっただけに、一連の問題が表面化したのは残念の一言です。

 ただ、仏をつくっても魂を入れるのは難しいのと同じように、さまざまな制度の整備が進んだ後、プロセスを踏みながら運用が改善、高度化していくものだと思いますので、ガバナンス改革も現在その過渡期にあるという見方もできます。

 品質不正の問題について言えば、日本は長い間、従業員の誠実さ、製品の信頼性において海外でも手本となってきました。しかし、慢性的な人手不足や効率性一辺倒の組織文化が、そうした美徳を過去のものとして押しやってしまったのかもしれません。

 これまでのガバナンスは、コンプライアンスを徹底し、経営者の独断的な行動を監視することや、不正行為、情報漏洩などを起こさないように、企業を守る目的で実行されてきました。それはもちろん大切なことですが、持続的成長に向けてはそうした「守りのガバナンス」に加え、「攻めのガバナンス」にも取り組む必要があり、その意味でもガバナンス改革は発展途上にあるといえます。

 アジア・コーポレートガバナンス協会が発表した「コーポレートガバナンス・ウォッチ2018」では、コーポレートガバナンスの国別品質において日本はアジアの12カ国・地域で7位、前回調査の2016年に比べてランキングを3つ落としました。このランキングがどこまで実態を正しく反映しているかどうかは別として、アジアの機関投資家からは、マレーシアやタイよりガバナンス品質が劣っていると見られている。少なくとも、そのように見られていることを私たちは直視する必要があると思います。

 ガバナンスは単なる統制のルールではなく、企業の長期的な成長を支える仕組みです。日本のコーポレートガバナンスがこれから本格的に変わっていくことを期待します。

森:成長を支える仕組みとしてのガバナンスを考えるうえで、「稼ぐ力」と表裏一体の関係にある「リスクテイク」が非常に重要な論点となります。「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上」は、「企業の継続」と「企業の成長」から成り立っており、これらをリスクとの関連で言い換えると、「企業の継続=リスクコントロール」「企業の成長=リスクテイク」ともいえます。

 企業を継続させるためには大きなネガティブインパクトのあるリスクは、未然に防止する必要があり、会社を成長させるためには投資を通じてリスクを取ってリターンを得る必要があるということです。
各社がそれぞれのコーポレートガバナンスのあり方を模索する中で、「稼ぐ力につなげるリスクテイク」という論点を外すことはできません。

 具体的には、執行部門におけるリスクテイクとリスクコントロールの活動に対し、中長期的な企業価値向上につながるかどうかという観点で、監督とモニタリングを行う責務を負う取締役会をもっと実効性のあるものにすべきだと考えます。

酒井:その点について、今後重要性が高くなってくるのが、取締役会の構成メンバーの多様性です。

 日本企業の取締役会は、その多くが同質性の高いメンバーで構成されてきました。業界や企業の内部事情をよく知る者同士だと異論が出ることは少なく、意思決定が円滑に進む利点がある一方、環境変化や問題発生に対しては脆弱性があります。その状況を打開するためには、社外取締役の果たすべき役割がますます大きくなっていくでしょう

森:取締役会をしっかりと機能させるためには、制度面と運用面から透明性をしっかりと担保する必要があります。守るにしても攻めるにしても、情報が共有され、意思決定プロセスが透明化されていないとチェックできないからです。

酒井:グローバルな競争に勝つためには、ガバナンス改善や透明性確保を含めて、日本企業が新たなフェーズに進むべき時期にあると思います。


  1. ●企画・制作:ダイヤモンドクォータリー編集部

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