金融業界を皮切りに、小売業や製造業など幅広い業界で「ロボティック・プロセス・オートメーション」(RPA)の導入が広がっている。ただし、RPAをコストや労働時間を削減するツールとして導入すると、そのベネフィットは限定的なものに終わってしまう。業務プロセス改革の端緒とし、デジタル・トランスフォーメーション(DX)へと発展させて、初めて大きな効果が得られる。
RPAの成功には
業務プロセス改革が不可欠
編集部(以下青文字):RPAを新しい労働力として活用し、その能力を十二分に引き出すための必要条件とは何でしょう。
髙見(以下略):2つあります。第1に、組織横断的な自動化オペレーションを可能にする「オペレーションモデルの構築」。第2に、RPAだけでなく他のデジタル技術を組み合わせた「自動化領域の拡張」です。
それぞれについてお尋ねします。まず、オペレーションモデルの構築について教えてください。
デスクトップPCに自動化ロボットをインストールする「ロボティック・デスクトップ・オートメーション」(RDA)の導入をもって、RPAプロジェクトとする誤解があります。RDAでも自動化は可能で、基本的には特定の個人の作業を自動化するツールでありますが、対象業務や導入効果は非常に限定的です。
RPAとは、その名の通り、より広い意味での業務プロセスの自動化を目指すものです。それは、かつてのビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)同様、組織横断的な取り組みです。したがって、複数の部門や組織をグリップする「センター・オブ・エクセレンス」(CoE)の設置が不可欠です。
オペレーションモデルの構築とは、このCoEを含め、業務のフォーマットや手順の共通化、関係者のベクトル合わせなど、RPAの効果を最大化するために、組織、プロセス、ルール、人材等の包括的な仕組みをつくり上げることであって、そのモデルの設計と構築を導入計画に早い段階から組み込んでおくことが肝要です。
RDAとRPAを同じものと理解している向きも、少なくないのではないでしょうか。
実際そのように説明されることもあります。しかし、やはり似て非なるものです。RDAだけでは、経営陣が期待するレベルの効果には届かないかもしれません。また、RDAの導入を野放図に広げていくと、統制不能、業務のブラックボックス化といった問題が生じかねません。
RPAソフトウェアを開発したある大手ベンダーは、当初RDAで業務プロセスの自動化を実現しようとしたのですが、やがてRDAの限界を知り、これを捨て去り、サーバー型のRPAに転換したというエピソードもあるくらいです。
ただし、申し添えておきますと、これは「製品としての優劣」ということではなく、「製品特性の相違」としてとらえるべきであって、「どちらがマーケットの主導を握るのか」といった観点ではなく、「どのような目的、どのような組織、どのような業務に、どちらが向いているのか」といった観点からお考えいただくべき論点だと考えます。
日本企業では、先ほどのBPRしかり、IT化やデジタル化しかり、全体最適を志向しながらも、結局は部分最適に陥ってきました。RPAにも同様の懸念があります。
RPAが登場した時、我々も、カスタマイズされた環境でこそ機能すると考えていました。つまり、個々の業務の自動化を支援するツールである、と。ところが、実際に自分たちに導入してみると、BPR同様、業務プロセス全体の視点から取り組むことが不可欠であることにすぐに気づきました。
RPAが担うのは、主に人間が手を動かす業務と基幹システムが担う業務の間にある領域です。それは、システム化するには一定水準のROIが見込めないので、システム化を諦めていた領域ともいえます。
RDA的な使い方からRPAとしての活用へと拡張していくには、業務や手順、プロセスの標準化はもとより、やはり全体最適の視点を忘れてはなりません。もちろん、一筋縄ではいきませんが、ここに挑戦しなければ意味がありません。
また、RPAプロジェクトというと、小さな話にまとまってしまいそうですが、RPAから始めてデジタル・トランスフォーメーション(DX)へと発展させるべきです。DXにはいろいろな進め方が考えられますが、小さく始めて早くに成功させ、さらにその先により大きな効果を実現していくのがプロジェクトの王道であるとすると、RPAはまさしく打ってつけです。