国際情勢の重要な構造的変化は、幾分単純化し過ぎのようにも思えるが、しばしば認識を容易にするため個別の事件の名を借りて表現される。例えば「ジェンキンスの耳の戦争」は、1731年に商船船長ロバート・ジェンキンス氏の体の一部が切り落とされた事件だが、カリブ海における英国とスペインの覇権争いと深いかかわりがある。これと同様に、カナダで拘束されている華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・最高財務責任者(CFO)を犯罪事件の被告として裁判にかけるため、米国がカナダに身柄引き渡しを求めていることは、中国と世界の先進民主主義諸国との激化する経済紛争を、個人の事件が象徴する形になっている。これは、中国政府に商取引に関する法の支配を尊重させ、言葉だけでなく行動面にも表れている国家統制主義的で重商主義的な政策を放棄させ、通信、コンピューター、人工知能(AI)分野の「民間」企業を攻撃兵器のように利用することをやめさせる上での、西側諸国の決意を試す機会になる。